8月18日

 

 NASAはアメリカ現地時間10日、2つの研究チームが、チャンドラX線観測およびその他の宇宙望遠鏡による観測データから中間質量ブラックホールに関する新たな知見を見出したと発表した。1つ目は我々の住む天の川銀河から50億光年も離れた矮小銀河において中間質量ブラックホールが存在することを発見したというもの。もう1つは地球から28億光年離れた位置において305個もの中間質量ブラックホールを発見したというものである。後者については超大質量ブラックホールの形成過程を説明する上で重要な発見であるとしている。

 

 中間質量ブラックホールはIMBHsとも呼ばれ太陽質量の数10万倍もの質量を持つ。中間質量ブラックホールの研究論文はここ数年いくつか出されているが、いまだに中間質量ブラックホールがどれくらい普遍的に存在しているか、もしくは超大質量ブラックホールの形成過程においてどのような役割を果たすかについての研究が多くなされている。

 

 スペインの宇宙研究機関の研究員であるメズキュア氏を中心とする研究チームは、矮小銀河(我々が住む天の川銀河の全星質量の1%に満たない質量の銀河)の研究をするために、COSMOSのデータを使用した。またチャンドラのデータも使用。チャンドラのデータは、銀河中心におけるブラックホールから放出されたX線のデータを含んでいる。X線はブラックホール付近における膨大な重力及び磁気エネルギーによって数1000万℃にも熱せられたガスから放出されるものである。

 

 これらのデータをもとにして矮小銀河の状態を調べた結果、矮小銀河が中間質量ブラックホールの居心地のよい場所であることがわかったとしている。研究チームは矮小銀河において40もの成長段階にあるブラックホールを発見。そのうちの12個は地球から50億光年以上離れた場所にあるものや最も遠いものでは109億光年離れた場所にある。矮小銀河中心ではブラックホールがどんどん成長していく。そしてこのような矮小銀河では太陽質量の1~10万倍の中間質量ブラックホールが生成起源になりうるとしている。したがって成長中のブラックホールをもつ銀河の一部は、より大きなブラックホールを持つ銀河よりも質量の規模が小さくなるのであると結論付けた。

 

 2つめの研究はハーバード・スミソニアン天体物理学センターの宇宙学者チリンガリアン氏を中心にして行われた。この研究チームは我々の住む天の川銀河のより近くにおいて中間質量ブラックホールの候補天体を発見した。この候補天体は地球から28億光年離れた場所にあり、候補天体のうち90%が13億光年も離れていない場所に位置しているという。SDSS(スローン・デジタル・スカイ・サーベイ)のデータをもとにして成長中のブラックホールから発せられる光を元にこれらの距離を推定し、質量を見積もった。305個もの銀河が見積もり対象となり、それぞれの銀河中心において太陽質量の30万倍もの質量をもつブラックホールが中心に存在していることを明らかにした。

 

 そしてチャンドラなどのX線データが、これら305個の銀河中心に存在するブラックホールが中間質量ブラックホールである可能性があることを示唆した。チリンガリアン氏は今回発見された中間質量ブラックホールの質量の大きさは、これまで発見されてきた中間質量ブラックホールの中で最大であるとコメントしている。

 

 中間質量ブラックホールは超大質量ブラックホールの成り立ちの説明をする上で重要な要素である。1つの説としては、巨大なブラックホールが長い年月をかけて太陽質量の100倍程度のブラックホールをもとにしてできたというものである。これらの小さな種が合体しあって中間質量ブラックホールとなる。もしくは太陽質量の100から1000倍の質量をもつ巨大分子雲が衝突して、中間質量ブラックホールになる。これらの中間質量ブラックホールが成長して超大質量ブラックホールに成長していくのである。

 

 いずれにせよ超大質量ブラックホールの研究を行う上で必要なデータ量は不足しており、今後打ち上げられる衛星観測によるデータが待たれるとしている。

 

 

コスモスのデータが中間質量ブラックホールの存在を示した。右下はブラックホールのイメージ。

( C ) X-ray: NASA/CXC/ICE/M.Mezcua et al.; Infrared: NASA/JPL-Caltech; Illustration: NASA/CXC/A.Hobart