9月1日

 

 国立天文台の但木謙一氏と伊王野大介准教授を中心とする国際研究チームは8月30日、124億光年彼方で爆発的に星を作っているモンスター銀河(注1) COSMOS-AzTEC-1(*注2)をアルマ望遠鏡で観測し、形成初期の銀河において分子ガスの地図を描き出すことに成功したと発表した。COSMOSはろくぶんぎ座(しし座とうみへび座の間にあり、20時南中は4月20日)の中にある領域。またこの地図を解析した結果、モンスター銀河では銀河全体にわたって分子ガス雲がつぶれやすくなっており、大量の星々が暴走的に生まれていることを示唆していると発表した。モンスター銀河は現在の宇宙に存在する巨大楕円銀河の祖先にあたる銀河と考えられているため、今回の研究成果は巨大楕円銀河の誕生の秘密を探ることにつながるとしている。

 

 私達が住む天の川銀河では、今でも太陽のような星が新たに生まれているが、初期の宇宙にはその1000倍という驚異的なペースで星を作る銀河が存在していた。このような銀河が「モンスター銀河」と呼ばれている。モンスター銀河は、天の川銀河のおよそ1000倍もの星を持つ巨大楕円銀河の祖先と考えられている。巨大楕円銀河は銀河が多数集まった銀河団の中心に位置している。巨大楕円銀河の誕生と進化の様子を調べることは、銀河団の形成、さらに銀河団が連なる宇宙全体の進化を理解することにつながる。

 

 モンスター銀河で驚異的なペースで星形成活動が起きる理由は未だ明らかにされていない。その謎を探る鍵となるのは、星の材料である分子ガスである。国際研究チームはこの謎を解き明かすべく、大量の分子ガスが含まれるモンスター銀河COSMOS-AzTEC-1 をアルマ望遠鏡の観測対象とし、高精細な分子ガス地図を作成することに成功した。国際研究チームは今回の観測を行う前に、既にメキシコにある大型ミリ波望遠鏡の観測によって、COSMOS-AzTEC-1が地球から124億光年のかなたに存在し 、猛烈な勢いで星を生み出していることを発見していた。しかしこれまでの観測では、分子ガスがCOSMOS-AzTEC-1の中でどのように分布しているのかを示す地図を得ることまではできていなかった。

 

 高精細な分子ガス地図から、分子ガスの大部分がCOSMOS-AzTEC-1の中心1万光年の範囲に集中していることがわかった。これまでに調べられてきた多くのモンスター銀河では中心部分で活発に星が生まれていることがわかっているため、決してこのことは珍しいことではない。ところがCOSMOS-AzTEC-1では、中心から数千光年離れた位置にも大きなガスの塊が2つあることがわかった。

 

 一般的な銀河形成シナリオとしては次のように考えられている。まずは濃く集まった分子ガス雲は自らの重力によってつぶれ、たくさんの星が生まれる。しかし、ある程度の量の星ができると、星や超新星爆発から噴き出すガスが重力に対抗する外向きの圧力として機能するため、ガス雲はつぶれることができず、星が生まれにくくなる。このようにして銀河における星形成活動は、ほどよいペースに自動的に落ち着くと考えられている。


 しかしCOSMOS-AzTEC-1においては一般的に考えられている銀河形成シナリオがあてはまらない。実は今回の観測ではCOSMOS-AzTEC-1内の分子ガスの分布とガスの質量のみならず、ガス塊内部でのガスの運動の様子、つまり圧力の分布も高い解像度で明らかにすることができた。これらの情報から、COSMOS-AzTEC-1では銀河全体にわたって分子ガスの質量、つまり重力が大きいわりにガスによる外向きの圧力が弱く、星形成活動のペースを抑える効果がはたらいていないことがわかった。中心部だけでなく、銀河全体にわたって極めて活発な星形成を起こしやすい状態になっていたのである。

 

 これらの分析から国際研究チームは、COSMOS-AzTEC-1では、星形成活動の自己制御が失われてしまっているために星が次から次へと暴走的に生まれているのだと結論づけた。その星形成のペースは星の材料である分子ガスをわずか1億年で使い果たしてしまうほどである。これは、より後の時代(宇宙誕生後20~60億年)の典型的な星形成銀河の場合に比べて10倍も速いもの。つまり、モンスター銀河は長期間にわたってモンスターとして君臨し続けることはできない。これは、巨大楕円銀河が宇宙初期のある時期に短期間に形成され成長することを示唆しているとしている。

 

 国際研究チームはCOSMOS-AzTEC-1がなぜ星形成の自己制御を失ってしまったかについて、ひとつの可能性として、この銀河が近い過去に銀河衝突を経験したことを挙げている。ガスを多量に含む銀河同士がぶつかることによって狭い範囲にガスが押し込められて、自己制御が失われて暴走的に星が生まれる流れを説明できるからである。

 

 但木氏は、「COSMOS-AzTEC-1には今のところ銀河衝突の証拠は見つかっていません。今後、アルマ望遠鏡を使ってより多くのモンスター銀河を観測することで、銀河衝突とモンスター銀河の関連を明らかにしたいと考えています。」とコメントしている。

 

*注1 モンスター銀河は、もっとも波長の短い電波であるサブミリ波を強く放射することから、「サブミリ波銀河」とも呼ばれる。こうした銀河では活発に星が生まれているが、その周囲を濃いガスや塵がおおっていて星の光が銀河の外まで漏れ出てこないので、可視光望遠鏡ではその姿を捉えることができない。かわりに、星の光であたためられた塵がサブミリ波を放っているために、電波望遠鏡でその姿を捉えることができる。

 

*注2 COSMOS-AzTEC-1は、ハワイ島にあるサブミリ波望遠鏡JCMT(ジェームズ・クラーク・マクスウェル・テレスコープ)に搭載されたカメラAzTEC(アズテック)を用いた観測によって初めて発見されました。COSMOSとは、この天体がハッブル宇宙望遠鏡の基幹プログラム「宇宙進化サーベイ(コスモス・プロジェクト)」で観測された領域にあることを示しています。ろくぶんぎ座の中にあるCOSMOS領域は、ハッブル宇宙望遠鏡以外の望遠鏡でも精力的に観測されています。COSMOS-AzTEC-1は、このCOSMOS領域で最も明るいサブミリ波銀河です。

 

 

 

( C ) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Tadaki et al.

アルマ望遠鏡で観測したモンスター銀河COSMOS-AzTEC-1。アルマ望遠鏡による観測で、銀河円盤中にある分子ガス(左)と塵(右)の分布をかつてない高い解像度で描き出すことに成功した。中心から少し離れた位置には、2つの大きな塊(矢印)が見えており、ここでも活発に星が生まれていると考えられる。

 

 

 

( C ) 国立天文台

アルマ望遠鏡の観測結果をもとにして描いた、モンスター銀河COSMOS-AzTEC-1の想像図。中心部分以外に、円盤部にも濃く集まった分子ガスが自らの重力でつぶれ、塊となっているようすを描いている。この塊の中では、たくさんの星が活発に作られている。