9月8日

 

 国立天文台は4日、守屋尭特任助教らが国立天文台天文シミュレーションプロジェクトが運用する計算機群「計算サーバ」を用いて大質量星の超新星爆発のシミュレーション研究を行った結果、爆発直前の星が大量のガスを放出していることが明らかになったと発表した。爆発直前に放出される厚いガスに包まれた超新星爆発のシミュレーションと、爆発直後の超新星を多数観測したデータとの詳細な比較を行うことによって今回の発見に至った。この研究成果は標準的な星の進化の理論では考えられていなかったことだとしている。

 

 質量の大きな星は、その一生の最期に超新星爆発と呼ばれる大爆発を起こす。超新星爆発では、星の中心で生じた衝撃波が表面に達した際に「ショックブレイクアウト」という現象が起こり、星が急激に増光することが予測されている。爆発直前の星の構造を詳しく解明するため、このショックブレイクアウトを捉えようとする試みが世界的に行われている。しかし増光の継続時間が数時間以下とたいへん短いために観測することが難しく、この現象についての理解は未だほとんど進んでいない。

 

 超新星のショックブレイクアウトによる増光を捉えるために、チリ大学のフォースター氏が率いる観測チームは2013年から2015年にかけてチリにあるブランコ望遠鏡を用いて赤色超巨星の大規模観測を行った。多くの大質量星は進化の最終段階で外層が大きく膨らんだ赤色超巨星となり、その状態で超新星爆発を起こす。この観測では26個ものこれまでにない数の赤色超巨星の爆発直後の超新星を捉えることに成功したにも関わらず、予測されていたショックブレイクアウトによる増光を確認することはできなかった。しかし観測されたほとんどの超新星の光度変化が、理論的に予測されているよりも早く明るくなっていることが新たに分かったのである。理論予測より早く明るくなる超新星はこれまでにもいくつか観測されていたが、理論予測と異なる光度変化を示す超新星がこれほど多く観測されたことはこれまでになかった。

 

 国立天文台の守屋尭特任助教は、超新星の光度が従来の理論予測よりも早く明るくなるのは、星から爆発の数百年前という直前に放出された厚いガスに取り囲まれていることが原因であるとこれまで考えてきた。今回、厚いガスに囲まれた超新星がどのように光るのか、守屋氏はガスの密度や速度などの条件を変えた518通りのシミュレーションを行い、その結果をフォースター氏らの観測データと詳細に比較した。その結果爆発直前の赤色超巨星のごく近傍に太陽質量の約10分の1というきわめて高密度のガスが存在する場合に、今回の観測結果をよく説明できることがわかった。ショックブレイクアウトによる増光は星を取り囲む厚いガスによって隠されてしまうために観測することが難しいのだとしている。また爆発によって星から高速で広がる噴出物がこの厚いガスに衝突する際に衝撃波が発生し、爆発から数十時間という短い時間で一気に光度が明るくなる。これは、星を取り囲む厚いガスの存在を考えない従来の理論予測よりも短い時間である。この結果は、超新星爆発直前の赤色超巨星が、なんらかの理由で多くのガスを放出していること、そしてそれが普遍的な現象であることを示している。

 

 守屋氏は「標準的な理論では、爆発直前の星がこれほど多くの物質を一気に放出するとは考えられていませんでした。超新星爆発直前の星についての理解がこれまで不完全だったことが明らかになりました」と、今回の研究の重要性を述べている。

 

 

( C ) 国立天文台

本研究により明らかになった大質量星の最期のイメージ。星のごく近傍を星から放出されたと考えられる厚いガスが取り囲む。

 

 

 

( C ) Förster et al. Nature Astronomy (2018) を改変

 

今回観測された天体の一つ、超新星「SNHiTS15aw」の明るさの時間変化。観測データ(丸印)、従来の理論予測(破線)、厚いガスに覆われている場合のシミュレーション(実線)のそれぞれの明るさを比較している。シミュレーションは、ガスの密度や速度などを変えて多数回行っている。従来の理論予測よりも実際の観測が早く明るくなること、観測データとシミュレーションの結果がよく一致していることがわかる。