9月12日

 

 北村成寿氏(東京大学)率いる国際研究チームは7日、MMS(Magnetospheric Multiscale)衛星編隊からのデータを解析し、粒子の密度が低い地球周辺の宇宙空間において、粒子から電磁波、電磁波から異なる種類の粒子へとエネルギーが輸送されている過程を検出することに成功したと発表した。この研究成果は、電磁波と高エネルギー粒子の相互作用の理解を進める手助けになるとしている。

 

 私たちの身の回りでは、分子や原子同士は、衝突することによって、熱や運動といったエネルギーがやりとりされる。その一方で大気圏の外では物質の密度が低く、粒子同士が衝突する確率は低い。衝突することなく粒子同士でエネルギーがやりとりされるのは、電磁イオンサイクロトロン波動(EMIC波動)と呼ばれる電磁波が関係すると一般的に考えられている。磁場に沿って進む電磁波とサイクロトロン運動をする粒子の回転の速さが一致する場合に、お互いに共鳴が起こってエネルギーがやりとりされる。このときの周波数が上がった電磁波のことを電磁サイクロトロンイオン波動という。

 

 これは、例えるならば船の航行によって発生する波が近くの他の船を揺さぶる現象に似ている。船同士はぶつかっていないが、波を介して他の船が揺さぶられるからである。船の場合は水の波を介してある船が別の船に影響を及ぼすが、宇宙空間の場合は電磁波がその役割を担うとされている。

 

 極地方で観測されるオーロラは、地球磁気圏(注1)とそこに分布している荷電粒子(注2)、太陽風として運ばれてくる荷電粒子や磁場が相互作用し、高エネルギーの荷電粒子が地球の高層大気に降り込むことで発生する現象である。オーロラを引き起こす高エネルギー粒子は、地球磁気圏の中で低エネルギーの粒子がエネルギーを得たものと考えられている。このとき粒子は、粒子同士の直接の相互作用ではなく、電磁相互作用によってエネルギーを獲得する。

 

 今回の研究成果はこれらの現象を裏付ける証拠を示すものになりそうである。

 

 MMS衛星編隊は、NASAによって2015年に打ち上げられた。同じ衛星、4機からなる編隊で、様々な計測器が搭載されており、その中に齋藤義文氏(JAXA宇宙科学研究所)がリードし、国内メーカーが製作したデュアルーイオンエネルギー分析器も搭載されている。本研究で研究チームはこれらの観測器のデータを解析し、水素イオンからヘリウムイオンへとエネルギーが運ばれる現象を捉えることに成功した。データを調べると、水素イオンの一部が特徴的な運動をしていて、電磁波にエネルギーを渡していることがわかった。一方、ヘリウムイオンを調べると電磁波からエネルギーを受け取っている特徴的な運動をしていることがわかった。

 

 研究をリードした北村氏は、「地球周辺の宇宙空間は天然のプラズマ実験室といえます。我々は、地球周辺の宇宙空間で電磁波と荷電粒子の相互作用によって、粒子同士が衝突することなく、エネルギーが輸送されているというデータを得ることに成功しました。」とコメント。また齋藤氏は「本研究により、電磁波と高エネルギー電子の複雑な相互作用についての理解が進む道筋がついたと思います。人類の活動領域が地上だけでなく地球周辺の宇宙空間まで広がった現在、我々を取り巻く環境を理解することは、今後、宇宙空間をさらに賢く利用する上でも大切なのです。」とコメントしている。

 

 現在JAXAのジオスペース探査衛星「あらせ」 (注3)も、高エネルギー電子の加速メカニズムや、磁気嵐の発達過程を明らかにしようと地球磁気圏を継続観測している。本研究で用いた研究手法が、今後の「あらせ」のデータ解析にも応用されることが期待されるとしている。

 

*注1 地球周辺の宇宙空間において、地球の固有磁場によって太陽風が直接侵入してこない空間のこと。

 

*注2 荷電粒子:電荷を帯びた粒子のこと。電子やイオンは荷電粒子の例である。

 

*注3 「あらせ」:JAXAが2016年12月20日に打上げた地球磁気圏を探査する衛星。地球周囲の放射線帯に存在する高エネルギー粒子が宇宙嵐に伴い増減を繰り返す過程や、宇宙嵐自体がどのように発達するのかを明らかにすることを主な目的としている。

 

 

( C ) 東京大学

本研究で捉えた水素イオンと電磁波、電磁波とヘリウムイオンとの相互作用を示すイメージ。