11月3日

 

 京都産業大学神山天文台の新中善晴研究員を中心とする研究グループは1日、すばる望遠鏡による観測により、2007年に爆発的な増光を起こしたホームズ彗星 (17P/Holmes) の中間赤外線波長域における分光データを解析した結果、ホームズ彗星が太陽系の中で太陽から遠い冷たい場所で誕生し、多くの揮発性物質を含んでいる可能性があることを明らかにしたと発表した。揮発性の高い氷が含まれている彗星では、これらの揮発性物質が爆発的に昇華 (固体からガスになること)することで、爆発的なダスト放出が生じる可能性があるとしている。

 

  ホームズ彗星は、太陽のまわりを約7年で公転する彗星である。2007年5月に近日点(太陽からの距離:2.05 天文単位)を通過し、2007年10月下旬に太陽から約 2.4 天文単位の距離に位置していた頃に爆発的な増光を起こした。2007年10月23日には約17等の明るさで観測されていたが、その直後の10月24日 (世界時) に8等となり約9等級も増光している姿が捉えられた。その後も急速に増光し、翌日10月25日には約2.9等になった。ホームズ彗星はその後次第に暗くなったが、このよう14等級以上 (光の強さにして約40 万倍以上)の増光が見られた彗星は極めてまれだとしている。京都産業大学などの研究グループは、この爆発的な増光の正体を探るべく急増光直後にホームズ彗星の分光観測を実施し、その原因が大量の塵(ダスト)放出にあることを突き止めていたが、このような爆発的な増光がどうして起こったのかは謎に包まれていた。

 

 爆発的な増光現象の謎を解き明かすべく、研究グループはホームズ彗星から放出されたダストの成分に注目し、爆発的な増光時に得られたデータの再解析に取り組んだ。彗星にはシリケイト(ケイ酸塩)と呼ばれる鉱物が含まれているが、このシリケイトは結晶質のものとアモルファス(非晶質)のものとが共存している。アモルファス成分は宇宙空間にも存在しており、太陽系が誕生した時にそのまま彗星が取り込んだ可能性がある。その一方で結晶質の成分は、アモルファスなシリケイト・ダストが原始の太陽の近くで加熱されて結晶質に変化したものであり、太陽から離れた場所まで運ばれてから、最終的に彗星に取り込まれたと考えられている。つまり太陽から遠くに離れるほど、そこまで運ぶことのできるダストは少なくなるため、結晶質成分が少ないほど、太陽から遠い所で誕生した彗星であると考えられているのである。


 研究グループはホームズ彗星のデータ再解析によって、他の彗星に比べてアモルファス成分のシリケイト・ダストが多く、結晶質成分が少ないことを明らかにした。これは上記の考え方に基づけば、ホームズ彗星が他の彗星に比べて太陽からより遠く、冷たい場所で誕生したことを示唆している。またこのような場所では、低い温度で昇華する一酸化炭素等の氷や、水のアモルファス氷 (低い温度で結晶質に変化し爆発的な昇華のエネルギー源になる)が豊富に存在する可能性があるとしている。

 

 今回の研究を主導した新中善晴研究員 は「彗星は、大きな尾をたなびかせた美しい姿や時々崩壊や急増光といった思いもよらない姿を見せてくれるだけでなく、太陽系の過去の情報を内に秘めた化石という面でも非常に面白い研究対象です。今回の成果は、ホームズ彗星の大増光直後という非常に貴重な時期に取得されたデータを用いたもので、ホームズ彗星や彗星に含まれる塵が形成した環境の理解が一つ深まりました。今後は、彗星ごとに含まれる鉱物の多様性をさらに明らかにしていきたいです」とコメントしている。

 

 

( C )国立天文台

ホームズ彗星の爆発的増光時の中間赤外線スペクトル。波長 10 マイクロメートル付近に、シリケイト (ケイ酸塩) ダストからの熱輻射ピークが見られる。細かいピークが結晶質シリケイトによるもので、このピークの位置によってシリケイトに含まれるマグネシウム:鉄の比率 (Mg:Fe 比) がわかる。図中の複数の縦線が異なる Mg:Fe 比のピーク位置を示しており、ホームズ彗星から放出されたダストがマグネシウムに富んだものであることがわかる。灰色の網がけ部分は地球大気のオゾン (O3) の強い吸収が見られる波長範囲を示している。