12月9日

 

 12月8日に東京国際会館において“超越”への“挑戦”というテーマの自然科学研究機構シンポジウムが行われ、重力波検出、赤ちゃんの視覚と脳の発達、地上における水素の核融合、サイボーグ植物(人工的に光合成を行うたんぱく質の研究)、超人スポーツ(VR、ロボットを利用したスポーツの普及)など幅広い分野における現在の自然科学、技術に関する講演会が行われた。その中で重力波検出に関するテーマをここで紹介することとする。


 重力波については、時空のさざ波~重力波で探る宇宙と題して、東京大学準教授の安東正樹氏が講演を行った。

 

 重力波とは大質量の物体が加速度運動をする際に放出される波のことである。最近では国立天文台のすばる望遠鏡、アルマ望遠鏡での電磁波による天体観測を行うことが主流になっているが、重力波によっても天体観測ができるようになった。

 

 重力波はアインシュタインの一般相対性理論によって予言された重力の変動によって時空間がひずみ、空間中を伝播する波のことである。重力の変動によって伝わる時空のひずみの波の振幅の変化は、地球と太陽の距離(1億5000万km)に対して水素原子1個分の大きさが伸び縮みするほどの量であり、波が伝播する距離を1とすると、その波の振幅の変化量は10の-21乗ほどである。例えばある空間に距離Lだけ離れた2個のボールを配置したとして、その2つのボールの間を重力波が通り抜けたとすると、ΔL~(10の-21乗)だけ振幅が伸び縮みする。そしてもう1つの重要な性質としては、この2つのボールの間の距離が伸びたとすると、2つのボールに直交して配置されたボールの2点間の距離は縮み、前者が縮むと後者は伸びるといった性質がある。

 

 この重力波をとらえようとアメリカのLIGO(ライゴ)、欧州のVIRGO(ビルゴ)が観測を続けてきた。これらの計測器は、マイケルソン電波干渉計と呼ばれる仕組みで重力波をとらえることを目的としている。図1のように十字形の形をしている。ある光源から光を発射し、真ん中の鏡(ビームスプリッター)で光をL字型に分けて、L字の先端から戻ってきた光を再度鏡で最初の光源とは別の経路に渡していく。もし重力波がこの電波干渉計を通ると、光の周波数の伸び縮みがおきるため、光は再度真ん中の鏡に戻ってきた際には重力波が到来しない状態に比べれば、異なった振幅の光が下の経路に漏れてくる。このような光の原理を利用することで、重力波が到来しない場合の光と比べて異なった振幅の光が十字型の光の経路に漏れてくれば、それで重力波を観測したということになるわけである。この十字型の真ん中の鏡から、L字型の2つの経路の先端までの距離は約4000kmである。これだけ長い距離の経路を用意することで、非常に小さな重力波による光の振幅の差動変動を捉えることができるのである。

 

 

( C ) 東京大学

図1 重力波を検出するための電波干渉計の仕組み

 

 アメリカに設置された電波干渉計LIGOは、ルイジアナ州のリビングストンとワシントン州のハンフォードの2つの地に建設されている。重力波はあらゆる方向から到来してくると考えられるため、1つの電波干渉計では、それが本当に重力波による光の振幅の変化であるのかどうかはわからない。2つの電波干渉計で同時に観測することではじめて重力波と断定することができるのである。そのため2つの地に電波干渉計が設置されていることには意義がある。

 

 2015年9月にLIGOによって初めて重力波が検出された。その後の観測を含めてこれまでに10個もの重力波検出の例が報告されている。最初に検出された重力波は、その重力波のもとになった源がどのような天体であり、どのくらいの質量、どのような運動をしているかの検証が行われてきた。検証が行われた結果、この重力波は地球から13億光年離れた場所から発せられた波であり、太陽の29倍、36倍の質量をもつ2つのブラックホールが連星運動をなしながら衝突合体してものであることがわかったとしている。連星運動は2つの星が、その共通重心を公転する運動であるが、重力波を放出することによってお互いの軌道半径が徐々に小さくなっていき、最終的には共通重心で衝突合体して1つのブラックホールになるものだとされている。また衝突合体の0.1秒前の2つの星の速度は、光の速度のおよそ30%、合体直前は光の速度の60%くらいの非常に高速で運動したこともわかったとしている。そして2つのブラックホールは衝突合体したあと太陽のおよそ62倍の質量になることがわかった。衝突する前の質量の総和は太陽の65倍、衝突後の質量は太陽の62倍であり、太陽3個分の質量の差がある。この太陽3個分の質量はブラックホールの衝突合体によって失われたものであるとしている。

 

 さらにこれまでには連星中性子星とよばれる天体からの重力波も検出された。連星中性子星はブラックホールほどではないが、とても高密度な天体であり電磁波による観測が可能である。重力波を検出するのと同時にガンマ線と呼ばれる電磁波も追観測により捉えられたことから、重力波を検出したことの正当性を裏付ける証拠になりうるとしている。

 

 重力波検出によってその重力波の源となる天体の情報がわかるのであるが、安東氏はこの重力波の研究によって更なる連星ブラックホールの性質、さらには宇宙が誕生した初期の銀河から発せられる重力波を調べることで、宇宙が誕生した直後の様子を調べることを目標としていると述べた。現在国立天文台は、岐阜県飛騨市にKAGRAと呼ばれる電波干渉計を建設中であり、2019年に稼動開始される予定である。このKAGRAによって将来行われる観測データを基に、天文学が進展していくことが期待される。