1月22日

 

 金沢大学の尾崎光紀准教授を中心とする国際共同研究グループは17日、地上で観測されるオーロラを使い、地球近傍の宇宙で発生する電磁波コーラス(*注1)と高エネルギー電子が共鳴することで生じる波動粒子相互作用(*注2)発生域の形状変化の詳細を明らかにしたと発表した。

 

 コーラス波動と電子が引き起こす波動粒子相互作用は、人工衛星に搭載される電子回路の故障や宇宙飛行士の被ばくなどを引き起こす有害な放射線を発生させる。また宇宙の高エネルギー電子を磁力線に沿って地球の大気中へ降下させ、地球の大気組成に変化をもたらす可能性も示唆されている。しかし波動粒子相互作用は目で見ることができないため、その形状変化の詳細は半世紀以上にわたり不明のままである。

 

 国際共同研究グループはコーラス波動が高エネルギー電子を地球の大気中へ降下させる際に特殊なオーロラを発光させることに着目し、地球周辺の放射線の様相を調査する科学衛星「あらせ」(2016年打上げ)と地上観測網PWINGとの協調観測を行った。その結果、科学衛星「あらせ」が地球から約3万キロ離れた距離でコーラス波動を構成するパケットを捉えたと同時に、そのコーラス波動に伴う波動粒子相互作用が引き起こした突発(数百ミリ秒)発光オーロラを地上で捉え、波動粒子相互作用発生域の形状変化が数十ミリ秒単位で非対称に発達することを明らかにした。

 

 また科学衛星「あらせ」と磁力線でつながるアラスカ南部のガコナ(PWING国際拠点の一つ)で観測された特殊な突発発光オーロラ現象は、数百ミリ秒の単位で宇宙のコーラス波動とオーロラの明るさと形状変化が一致する変化を示し(図1)、このオーロラがコーラス波動に伴う波動粒子相互作用発生域の形状変化を表すディスプレイになることを明らかにした。地上で捉えたオーロラの明るさと形状変化は、従来の科学衛星の点観測では捉えることのできなかった波動粒子相互作用発生域の詳細を可視化し、世界で初めて地磁気的な南北方向に非対称性を強く示すことを明らかにした(図2)。この変化は、電磁波と電子が効率良く共鳴することで磁力線に沿った方向の変化(オーロラの明るさの時間変化として観測される)だけでなく、磁力線を横切る方向の変化(オーロラ形状の空間変化として観測される)が起こっていることを意味している。そして、数百ミリ秒という短期間に限定された範囲で地球大気組成に変化をもたらしうる高エネルギー電子を大気中に急速降下させていることを示唆している。

 

 本研究によってこれまで知られていなかった磁力線を横切る方向の波動粒子相互作用発生域の形状変化が明らかになったが、今後突発発光する特殊な類似オーロラ現象を数多く解析することによって、普遍的な特徴をさらに明らかにできると研究チームは考えている。今後は人工知能の技術も組み合わせることでオーロラの詳細な解析を行い、宇宙の電磁環境を表すハザードマップを作成することにより、安定した宇宙利用拡大に貢献することを目標としている。また、固有の磁場を持つ惑星においてもコーラス波動と電子の波動粒子相互作用が生じていることも知られている。本国際共同研究グループが開発した電磁波観測装置の搭載された水星磁気圏探査機「みお」(2018年打上げ)などによる惑星探査への応用も期待される。

 

*注1

磁力線に沿った電子のらせん運動に伴う電磁波。特に、音声に変換すると鳥のさえずりのように聞こえるものをいう。

 

*注2

無衝突プラズマ中における電磁波と宇宙プラズマの相互作用のこと。電磁波を媒介して宇宙プラズマがさらに高いエネルギーへ加速されたり、散乱されるなどの現象が生じる。

 

 

 

( C )国立極地研究所

図1

 科学衛星「あらせ」で観測した数百ミリ秒存続期間を示すコーラス波動のパケットと地上(ガコナ・アラスカ)で観測されたオーロラの一対一対応。宇宙で発生したコーラス波動に伴う波動粒子相互作用に関する情報が磁力線を通じて地上からオーロラとして仔細に可視化されている。

 

 

 

( C )国立極地研究所

図2

 観測された突発発光オーロラの南北方向の非対称形状変化。1ピクセルの強度変化は磁力線に沿った時間変化を表し、形状変化は磁力線を横切る方向の空間変化を表す。