3月6日

 

 国立極地研究所は2月8日、オーロラ爆発の際に宇宙空間のヴァン・アレン帯から地球に降り注ぐ高いエネルギーの電子の数が急増し、上空65km付近の比較的低い高度の大気を電離させていることが、昭和基地の大型大気レーダー「PANSYレーダー」とジオスペース探査衛星「あらせ」観測から明らかになったと発表した。

 

 オーロラが急激に明るく光る「オーロラ爆発」と呼ばれる現象が南極・昭和基地上空で世界時2017年6月30日22時20分から約5分間(図1)にわたって発生し、同基地の大型大気レーダー「PANSYレーダー」によって、オーロラよりもはるかに低い65km高度で大気の電離が確認された。オーロラ爆発は地球近くの宇宙空間でおこる磁力線のつなぎかえをきっかけとして高緯度地方の上空に熱いプラズマが集まり、それらが自ら回転運動を始めることで大電流を急激に作り出す現象を指している。

 

 宇宙空間から降ってきてオーロラを光らせる数keVの電子は高度100km付近の大気を電離させて止まるが、そのときに発生するX線がオーロラよりも低高度の大気を電離させることが知られている。したがってPANSYレーダーの観測結果の解釈として、「オーロラ爆発の際にオーロラX線が大量に増えた結果ではないか」という可能性が考えられた。その一方で「ヴァン・アレン帯電子が、オーロラ爆発と同時に大量に降ってきた結果ではないか」という可能性も考えられいた。ヴァン・アレン帯の電子は普段は宇宙空間に留まっているが、100-1000keVという高いエネルギーを持つため、仮に宇宙空間から大気に降ってくることがあれば高度65kmにまで侵入できることになる。

 

 国立極地研究所の片岡龍峰准教授らの研究グループはなぜこのような低い高度の大気が電離したのかを研究するべく、まずは電子が大気に入射した際に発生するX線や大気電離を計算できるモンテカルロ型シミュレーション「PHITS」によって、オーロラX線とヴァン・アレン帯電子の両者が引き起こす電離度を見積もった。その結果、高度65km付近ではオーロラX線による電離はわずかであり、電離のほとんどはあらせ衛星で観測されたヴァン・アレン帯電子の大量降下のために起こったことが明らかになった(図2)。このシミュレーション結果は昭和基地に導入されているオーロラカメラやリオメータ等の様々な観測装置のデータとも整合的であり、どのくらい高いエネルギーの電子が宇宙から大気へ降り込んでいたかが確実に推定できたことになるとしている。またヴァン・アレン帯電子の流入は、オーロラ爆発の数時間後に発生する脈動オーロラの時に起こることが知られていたが、今回、オーロラ爆発の直後にも起こりうることが判明した。

 

 今回の研究結果は、オーロラ爆発直後の数分間という短い時間に限ってヴァン・アレン帯電子が降ってくるとことを明らかにしたものだが、なぜその限られた時間だけヴァン・アレン帯電子が大気まで落ちてくるための道が開通するのか、という具体的な仕組みは明らかになっていない。今後先端的なシミュレーション研究や「あらせ」等による宇宙空間の直接観測データの詳細な分析など、さらなる研究が必要であるとしている。

 

 

図1:( C ) 国立極地研究所・宮岡宏

世界時2017年6月30日22時20分前後のオーロラ爆発の様子。左は爆発5分前、右は爆発直後。

 

 

 

図2:( C ) 国立極地研究所

 

カーテン型のオーロラ(赤)、放射線電子(黒)による電離率の高度プロファイル。