3月20日

 

 愛媛大学の研究者を中心とする国際研究チームは13日、地球から約 130 億光年離れた超遠方宇宙において83 個の巨大ブラックホールを発見したと発表した。巨大ブラックホールが超遠方宇宙にも普遍的に存在することを初めて明らかにした重要な成果で、宇宙初期に起こった「宇宙再電離」の原因に対しても新たな知見を与えるものだとしている。

 

 巨大ブラックホールは太陽の100 万倍から100億倍にも達する重さを持つ。宇宙に普遍的に存在することが知られているが、ビッグバンに近い宇宙初期の時代にも普遍的に存在するのか、また個数密度がどれくらいなのかといった基本的な事は未だに多くの謎が残されている。巨大ブラックホールを見つけるには、それが周囲の物質を飲み込む過程で明るく輝く「クェーサー (図2)」を探す方法が効率的である。しかしこれまでの探査では、超遠方宇宙には非常に稀にしかクェーサーが発見されず、しかも見つかるのは現在の宇宙では珍しいような、最重量級の巨大ブラックホールによる最も明るいクェーサーに限られていた。

 

 研究チームは巨大ブラックホールの謎を解き明かすべく、まずはすばる望遠鏡の膨大な数の天体のデータから超遠方クェーサーの特徴を示す候補天体を選び出した。次にすばる望遠鏡、大カナリア望遠鏡、ジェミニ望遠鏡という3つの大口径望遠鏡を用いて、候補天体に対する集中的な追観測を行った。こうして得られたスペクトル(図3)の特徴から、研究チームは 83 個の超遠方クェーサーを新発見することに成功した。これらは従来知られていたクェーサーのわずか数パーセント程度の明るさで、今回初めてその微弱な光をとらえ、普通の重さの巨大ブラックホールが超遠方宇宙にも多数存在することを初めて明らかにした。一方で文献調査の結果、別の候補天体のうち17 個については過去にスペクトルの報告があり、超遠方クェーサーであることが確認された。よって今回の探査によって計 100 個 (新発見 83 個、再発見 17 個) のクェーサーが発見されたことになる。また測定されたクェーサーの個数密度は一辺 10 億光年の立方体ごとにおよそ1個であった。

 

 発見されたクェーサーはどれも地球から約 130 億光年の距離、つまり現在から約 130 億年前の宇宙に存在したことになる。ビッグバンからその時代までは、現在の宇宙年齢 (約 138 億年) のわずか 5% ほどの時間しか経過していない。また研究チームの発見した中には、地球からの距離 130.5 億光年のクェーサーが含まれていた(図1)。

 

 初期の宇宙では「宇宙再電離」と呼ばれる宇宙空間全体のプラズマ化が起こったことが分かっている。このプラズマ化を引き起こしたエネルギー源がどこなのかは未解明。有力な仮説の1つとして、未検出の超遠方クェーサーが非常に多数存在しており、それらの膨大な放射エネルギーによって再電離が起こったとの予測もあった。しかし今回の探査によってクェーサーの個数密度が初めて精密測定され、宇宙空間全体をプラズマ化できるほど多数の超遠方クェーサーは存在しないことが明らかになり、クェーサーによる再電離の仮説は棄却されることになった。再電離を引き起こしたのは別のエネルギー源、おそらくは初期の宇宙で誕生しつつある多数の銀河であるかもしれない。

 

 研究チームを率いる松岡良樹氏(愛媛大学宇宙進化研究センター)は「私たちが発見した多数のクェーサーに対しては、世界中の研究者によってこれから多面的な観測が行われ、詳細な性質が明らかにされていくことになります。また測定された個数密度や明るさの分布を数値シミュレーションの予測と比較することで、初期宇宙での巨大ブラックホールの形成・進化のプロセスに新たな知見を得ることもできるでしょう」とコメント。研究チームは今回の成果をもとにさらに遠方への探査を進め、巨大ブラックホールが誕生した経緯を明らかにしていくことを目標にしている。

 

 

( C ) 国立天文台

図1:研究チームが新発見した、地球から距離 130.5 億光年にある巨大ブラックホール (矢印の先にある赤い天体)。この画像は、すばる望遠鏡の超広視野主焦点カメラ HSC による探査観測で得られたもの。超遠方にあるため、宇宙膨張による赤方偏移と宇宙空間での光の吸収効果で、このように非常に赤く観測される。

 

 

( C ) 松岡良樹氏

図2:クェーサーの想像図。中心には太陽の 100 万倍から 100 億倍もの重さ (質量) を持つ巨大ブラックホールが存在する。このようなブラックホールは、多くの銀河の中心部を住処として、宇宙に普遍的に存在する。巨大ブラックホールが周囲の物質を活発に飲み込み始めると、宿主である銀河全体をも凌駕する非常に明るい光を放つが、そのような活動的な巨大ブラックホールは特に「クェーサー」と呼ばれる。

 

 

 

( C ) 国立天文台

研究チームが発見した超遠方クェーサーのスペクトルの一例。天体から届く光を分光器によって波長ごとに分解し、光の波長を横軸に、光の強さを縦軸に取って表示したものをスペクトルと呼ぶ。スペクトルの形状を分析することで、観測した天体がクェーサーであることや、その天体までの距離を決定することができる。この天体の場合、波長 0.122 マイクロメートルで放射された水素の輝線が、宇宙膨張の効果によって波長が伸びた (赤方偏移した) 結果、波長 0.896 マイクロメートルで強い光のピークとして観測されている。この事実から赤方偏移の値は 6.37 となり、地球からの距離に換算すると約 130 億光年になる。