5月2日

 

 ESAは4月29日、ガンマ線天文衛星INTEGRAL(インテグラル)望遠鏡によりV404シグニと呼ばれる連星系を成すブラックホールを観測した結果、このブラックホールの高速回転から生ずるプラズマのジェットを観測することに成功したと発表した。このプラズマジェットは、回転スピードが落ちてきたこまがゆらめくように、ブラックホールの極から方向を変えながら噴き出している。

 

 V404シグニは1989年に発見されたが、地球からおよそ8000光年離れた場所にあり連星系を成している。V404シグニブラックホールは、連星を成すもう片方の恒星から物質を吸収し、高エネルギー宇宙線や物質を放出している。

 

 INTEGRAL望遠鏡は、2015年にこのV404シグニから高いエネルギーをもつX線を観測することに成功した。国際研究チームがこの観測データを解析した結果、V404シグニブラックホール付近から高速で噴き出すプラズマジェットの存在を見出した。さらにこのプラズマジェットの噴出方向は1時間以内のタイムスケールで方向転換することから、ブラックホールが存在するディスク内部の領域が高速回転することを意味するとしている。

 

 これまで天文学者の間ではブラックホールから吹き出すジェットはブラックホールの極から垂直に吹き出すと考えられていた。また過去には回転するジェットを持つブラックホールは1個だけ観測されていたが、その回転スピードは遅く、6ヶ月で1回転するほどのスピードであった。

 

 研究チームの一員であるジェームズ・ミラー・ジョーンズ氏は、V404シグニから吹き出すプラズマジェットについて「V404シグニは他のブラックホール天体と異なり、ディスク状の物質とブラックホールが不自然に整列しているため、ディスクの内側の部分が回転スピードが落ちてきたこまがゆらめくように動き、ジェットもその動きにあわせて違う方向に噴出することが予想される」とコメントしている。

 

 ESAの天文学者であるシモネ氏はディスク内部の回転軸の傾きの要因について、V404シグニブラックホールの回転軸が連星系をなすもう一方の恒星の軌道に関連して傾いていることをあげている。

 

 研究者の間ではこれまでにもディスクとブラックホールの不自然な整列について考えられてきた。一つの有力の説としては、スーパーノヴァ(大質量の恒星が寿命を終えるときに起こる大規模な爆発現象)がブラックホールの回転軸の傾きを生み出し、不自然な整列になっていると考えられている。国際研究チームの一員であるエリック氏は、「今回の観測結果は、ブラックホールの付近の降着ガスとジェットが共に回転するコンピューターシミュレーションと併せて考えてみると、この一般的に考えられているスーパーノバによるディスクとブラックホールの不自然な整列理論とも一致しているように見える。」としている。

 

 またエリック氏はブラックホールとそのまわりの流入するガスの力学について研究を深めるとともに、ジェットの吹き出す角度の変化を考慮にいれてブラックホールの研究を行っていくことがブラックホールを正しく解釈するうえで重要であると、今後の課題を述べている。

 

 

( C ) ICRAR

ブラックホールとそこから噴き出すプラズマのイメージ図

 

 

( C ) ICRAR

連星系をなすV404シグニのイメージ図