5月15日

 

 東京大学の橘省吾教授らからなる研究グループは4月26日、アルマ望遠鏡によるオリオン大星雲の中の巨大原始星「オリオンKL電波源I」から回転しながら吹き出すガスの流れ(アウトフロー)の観測データから、アウトフローの根元付近に一酸化アルミニウム分子が存在することを明らかにしたと発表した。この研究成果は、揮発性の低い一酸化アルミニウム分子がアウトフローの中で固体微粒子(ダスト)に変わっていることを示唆するとしている。これまでは一酸化アルミニウム分子は年老いた星から吹き出すガスにしか観測されていなかった。アルミニウムを主成分とする鉱物は、太陽系最古の固体物質中に豊富に存在するが、その形成環境は未だ充分に理解されていない。本研究結果をきっかけに今後原始星周囲での金属を含む分子の分布を明らかにすることで、太陽系最初期に惑星の材料となった鉱物がどのようにつくられたのかを理解することにつながることが期待される。

 

 オリオンKL電波源Iは、太陽系から約1400光年の距離に位置し、太陽の数倍以上の質量があると見積もられている。

2017年6月17日ニュース参照・・・原始星から噴き出すガスの回転を捉えることに成功

 

 酸化アルミニウムは、結晶になるとコランダムもしくは宝石名でサファイアと呼ばれ、身近な物質である。

 

 研究グループは、アルマ望遠鏡の観測データを解析し、大質量星形成領域であるオリオン大星雲の中の巨大原始星「オリオンKL電波源I」の原始星円盤から回転しながら吹き出しているガスの流れ(アウトフロー)の中で、一酸化アルミニウム分子から放射される497GHzと650GHzの電波を発見し、原始星の周囲にもこの分子が存在することを明らかにした。これまで一酸化アルミニウム分子は進化末期の年老いた恒星から吹き出すガス中での存在が報告されていた。例えばうみへび座W星(2017年11月3日ニュース参照)。年老いた星が吹き出すガスの中で一酸化アルミニウム分子は固体微粒子(ダスト)となって銀河を漂い、新たな恒星や惑星の材料になる。そのようなダストが太陽系の材料となったことは、隕石の分析からも知られている。しかし、一酸化アルミニウム分子が誕生直後の若い星(原始星)の周囲に存在するのか、存在するとしてもどのように分布しているのかはこれまで知られていなかった。

 

 さらに、研究グループは一酸化アルミニウム分子の分布が、アウトフローが吹き出す根元の付近に限られていることを明らかにした。同じくアウトフローに見つかる一酸化ケイ素分子などの分布に比べると、極めて局所的なその分布は、揮発性が低いという一酸化アルミニウム分子の科学的特徴から説明される。高温のガスがアウトフローとして広がる過程で冷却され、そこに含まれる一酸化アルミニウム分子はダストとして凝縮し、ガスから取り去られた可能性が高いと考えられるとしている。

 

 隕石の研究から、太陽系で最初につくられた固体物質はアルミニウムやカルシウムといった揮発性の低い元素に濃集した鉱物からできていることが知られており、これらの物質が惑星をつくる材料になったと考えられている。しかし太陽系の最初期に惑星の材料となった鉱物が、どのような環境でどのようにして作られたのかは未だ充分に理解されていない。原始星周囲で一酸化アルミニウム分子がダストとして凝縮する可能性を示した本研究結果は、原始星周囲での惑星材料の進化の理解を進めることはもちろん、太陽系で惑星の材料がどのようにして作られ、惑星へと進化したのかを理解するための手がかりとなることが期待される。また、様々な質量の原始星周囲でのガスの観測から明らかになる惑星材料に関する知見と、隕石や「はやぶさ2」のような探査機によるリターンサンプルからわかる太陽系に関する知見とを比較することで、太陽系の形成・進化過程が銀河系内の他の惑星系と似ているのか、異なるのかということを議論することができるようになることが期待される。

 

 

 

( C ) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Tachibana et al.

アルマ望遠鏡が観測した、オリオンKL電波源I周囲の一酸化アルミニウム分子の分布。天体がある図の中心から左上、右下へと羽を広げた蝶のように分子が分布している。楕円状の等高線は塵が放つ電波の分布を示し、原始星円盤を横から見ていることがわかる。アウトフローは図の左上と右下方向に広範囲に広がっている。