6月12日

 

 愛媛大学の小山研究員らの研究グループは6日、星形成銀河から非星形成銀河への進化途中にある複数のグリーンバレー銀河を観測した結果、円盤型や楕円型銀河といった形態が銀河内の星形成効率に影響を及ぼすという従来の理論的予想をくつがえす観測結果を得たと発表した。観測結果によれば、円盤型や楕円型をしたグリーンバレー銀河内において同じくらいの効率で星形成が進んでいることがわかった。円盤型銀河と楕円型銀河がともに存在する理由としては、星形成効率が下がることが関係していると予想されていたが、新たな説として銀河内の分子ガスが星形成以外の要因で減少することがあげられており、更なる観測によって銀河内の分子ガス量の把握に努めていくとしている。

 

 銀河は大きく分けて、星を活発に作っている星形成銀河と、ほとんど星を作っていない非星形成銀河の二種類に分けることができる。 一般的に星形成銀河がその星形成活動を終えることによって、非星形成銀河へと進化すると考えられている。一方で星形成銀河には薄い円盤状で渦巻き構造をもつ円盤型をしたものが多く、非星形成銀河には楕円状で特徴的な構造をもたない楕円型をしたものが多いことから、 銀河の進化は銀河の形とも密接な関係にあると考えられている。この関係性の要因としてこれまでは、銀河が楕円型の形態をもっているとその銀河の中でガスから星を作る効率(星形成効率)が低下してしまう、という説が理論的に提唱されていた。

 

 銀河の形態が星形成効率に影響を及ぼす説は、「形態による抑制」(morphological quenching)と呼ばれており、これまでの観測においてもその説を裏付ける証拠がある程度見つかっていたが、これらの観測においては星形成銀河に属する円盤銀河と非星形成銀河に属する楕円銀河、つまり大きく異なった進化段階にいる銀河同士の星形成効率が比較されていたため、正しく形態の影響を評価できていない可能性があった。

 

 研究グループは「形態による抑制」説を正しく検証するために「グリーンバレー銀河」と呼ばれる銀河種族に着目した。 グリーンバレー銀河は、星形成銀河から非星形成銀河への進化途中にある銀河である。また様々な形態をもつ銀河を含んでいるため、 この説の検証に最適な銀河種族である。今回の研究ではグリーンバレー銀河の中から、一方は円盤型、 もう一方は楕円型の形態をもつ2種類の銀河サンプルを作り、野辺山45m電波望遠鏡による一酸化炭素(CO)輝線の観測を行うことで、 星形成効率と形態との関係性を調べた。その結果グリーンバレー銀河の星形成効率は銀河の形態に依っておらず、 ほぼ一定の効率を持っていることがわかった。なお観測数は、円盤型のグリーンバレー銀河が13天体、楕円型のグリーンバレー銀河が15天体である。

 

 今回の観測結果は、銀河の星形成活動が形態に影響されずに行われていることを示しているが、 これまでの研究で知られている銀河の形態と星形成活動の関係が存在している以上、この関係性を形作る何らかのメカニズムが存在しているはずである。 この新しい候補として、銀河がもつ分子ガス量が星形成以外の原因によって減少してしまった可能性などが考えられるとしている。 分子ガス量の減少に対する形態の影響を明らかにするためには、銀河内部の分子ガス分布を調べることが有用である。 そこで研究グループは、銀河内部でのCO輝線分布をより詳細に調べることができるアルマ望遠鏡を用いて、 グリーンバレー銀河内部のCO輝線分布を新たに観測することを計画している。グリーンバレー銀河の中の分子ガスの分布が明らかになれば、 星形成活動の抑制と形態がどのような関わりを持っているのかをより詳細に知ることができる。

 

 

 

( C ) 国立天文台

図1. 研究の概念図。この研究では、グリーンバレー銀河の中から、円盤型をしたものと楕円型をしたものを選び、 野辺山45m電波望遠鏡で一酸化炭素(CO)輝線の観測を行い、星形成の効率を比べた。 図の上部はSDSSで撮られた可視光帯での銀河の姿、下部は野辺山45m電波望遠鏡で撮られたCO輝線を表している。

 

 

 

( C ) 国立天文台

図2.(左)等高線は、銀河がもつ星の総質量と星形成率( 1年間に作られる星の質量 )の関係上での、銀河の分布を表している。図から、星を活発に作る星形成銀河と、ほとんど作っていない非星形成銀河の2種類がいることがわかる。 図の上で、銀河は矢印の方向に進化すると考えられており、進化途中の銀河はグリーンバレー銀河とよばれている。 (右)野辺山45m電波望遠鏡で観測した円盤型と、楕円型のグリーンバレー銀河の可視光帯での姿。 円盤型は平べったく渦巻きのような構造が見られる一方、楕円型は特徴的な構造が弱く、ぼんやりとした球のような姿をしている。

 

 

 

( C ) 国立天文台

図3. 円盤型と楕円型のグリーンバレー銀河の星形成効率の比較と、その解釈の概念図。