6月19日

 

 早稲田大学を中心とする国際研究チームは18日、アルマ望遠鏡を使ってろくぶんぎ座の方向にある遠方天体B14-65666を観測した結果、酸素、炭素、塵が放つ電波を検出することに成功したと発表した。この天体までの距離は131億光年であり、3つの電波を同時に観測した距離としては最遠方である。またこの天体が同じくらいの大きさを持つ2つの銀河が合体しつつある状態にあることも判明した。研究チームは今後さらに窒素や一酸化炭素分子を検出し、銀河の形成と進化やその中での元素・物質の蓄積過程の解明を目指すとしている。

 

 宇宙は138億年前にビッグバンで誕生した。このときに宇宙に存在した元素は水素とヘリウムだけであった。これまでの研究から、その後2~3億年経過したころに最初の星が作られたと考えられている。星の中では水素をヘリウムに、ヘリウムを炭素や酸素に変換する核融合反応が進み、さまざまな元素が生み出される。そしてこの星が一生を終えるときに大爆発(超新星爆発)を起こし、元素が宇宙にまき散らされる。まき散らされた元素の一部は、結びついて微粒子(塵)を作る。こうした元素や塵は宇宙空間に漂うガスと混じりあい、次の星の材料となる。このため宇宙初期の酸素や炭素を見つけることは、それより前の時代の星の誕生と死を知る手がかりとなる。こうした星たちは宇宙の中に単独で存在するのではなく、銀河という集団を作っている。宇宙の歴史の中ではまず小さな銀河が生まれ、それらが合体を繰り返しながら大きく成長していくと考えられている。このような銀河の合体の歴史と過程を明らかにすることも、現代天文学の大きなテーマとなっている。

 

 遠方天体B14-65666はろくぶんぎ座の方向にある地球から131億光年離れた天体であり、天の川銀河の100倍のペースで星が生み出されている。合体によって銀河のガスが圧縮され、爆発的な星形成が起こったと考えられている。またハッブル宇宙望遠鏡による赤外線観測で、この天体はほぼ同じ規模の2つの星の集団(銀河)で構成されていることも明らかになっている。

 

 国際研究チームは初期宇宙銀河の形成と成長過程を解明すべく、アルマ望遠鏡を用いてB14-65666の観測を行った結果、この天体から酸素、炭素、塵が放つ電波を検出することに成功した。これまでのアルマ望遠鏡などによる観測でも、酸素や塵の電波が他の遠方銀河で検出されていたが、3種類の物質が放つ電波がそろってとらえられたものとしてはB14-65666が最も古い時代の天体ということになる。早稲田大学の橋本氏は、「これほど遠方の銀河で酸素、炭素、塵を全て検出することができたのは、アルマ望遠鏡の絶大な威力を物語っています。豊富なアルマ望遠鏡のデータと、ハッブル宇宙望遠鏡のデータ、馬渡フェローの多波長解析の結果がパズルのピースのように合わさり、この銀河が衝突・合体をしているという大きな結論が得られたのです。宇宙初期にある銀河の荒々しい様子が手にとるように分かり感動しました。」とコメントしている。また酸素、炭素、塵はいずれも、ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した2つの銀河の位置にかたまりを形作って存在している。それぞれの銀河に含まれる酸素や炭素が放つ電波を分光し、宇宙膨張による波長の引き伸ばされ方(ドップラー効果)を調べることで、2つの銀河が地球からほぼ同じ距離にあることもわかった。つまり地球から見て偶然隣り合って見えるのでなく、実際に2つの銀河が並んで存在しているのである。

 

 銀河全体が放つ赤外線や電波の強さは、その銀河に含まれる星の総質量や年齢、星を生み出すペースなどを反映する。研究チームはアルマ望遠鏡と他の望遠鏡で過去に行われた観測で得られたデータを組み合わせ、2つの銀河に含まれる星の総質量がおよそ8億太陽質量であることを導き出した。私たちが住む天の川銀河の質量はおよそ1000億太陽質量であるため、比較的B14-65666はずっと小さな銀河ということになる。一方で、この銀河で天の川銀河のおよそ100倍のペースで星が生み出されていることも明らかになった。これは、130億年以上昔に存在した銀河のなかでは大きな値であり、同時代の一般的な銀河よりも星形成活動が活発であるといえる。

 

 星形成が活発になる原因の一つとして、銀河の衝突・合体が挙げられる。銀河が衝突すると、それぞれの銀河に含まれていたガスが圧縮され、星が生まれやすい状況が作られる。B14-65666は2つの銀河が接するほど近くにあること、活発な星形成活動を起こしていることから、小さなふたつの銀河が互いに衝突し合体しつつあるところである、と研究チームは結論付けた。このような合体銀河は数多く見つかっているが、B14-65666はその中でも最古のもの、つまりもっとも宇宙のはじまりに近いものである。

 

 私たちが住む天の川銀河もその他の多くの銀河も、小さな銀河の捕獲や同規模の銀河どうしが衝突合体を繰り返して現在の姿になったと考えられている。初期の宇宙に合体しつつある銀河をとらえたことは、130億年以上にわたる銀河進化の歴史のはじまりをひもとくという意味でもたいへん重要な成果である。早稲田大学の井上教授は「これほど遠方の銀河からの酸素、炭素、塵を初めて全部そろえることができたのは、快挙といえます。今後、さらに窒素や一酸化炭素分子を検出し、銀河の形成と進化やその中での元素・物質の蓄積過程の解明を目指します。」と今後の抱負を述べている。

 

 

( C ) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), NASA/ESA Hubble Space Telescope, Hashimoto et al.

アルマ望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡で撮影した、131億光年彼方の合体銀河B14-65666の疑似カラー画像。アルマ望遠鏡で観測した塵、炭素、酸素の分布をそれぞれ赤、黄、緑で表現している。

 

 

 

( C ) 国立天文台

アルマ望遠鏡による観測結果をもとに描かれた、131億光年彼方の合体銀河B14-65666の想像図。