7月31日

 

 国立天文台の鳥居和史特任助教を中心とする研究チームは24日、野辺山宇宙電波観測所45メートル電波望遠鏡を用いて天の川銀河のおよそ2万光年にわたる広い範囲を対象に、低密度ガス雲と高密度ガス雲の量を精密に測定した結果、低密度ガス雲に比べて高密度ガス雲が分子雲総質量の3%しか存在しないことを明らかにしたと発表した。このことは低密度ガス雲からは高密度ガス雲がわずかしか作られないため、高密度ガス雲で作られる星の量も少ないことを示唆する。研究チームは高密度ガス雲の形成を阻害するなんらかの要因があると考えており、今後もさらに広い領域でのデータ解析を続けていくとしている。

 

 一つの銀河には数百億から数千億とも言われる星の数があり、星は冷たいガス雲(分子雲とも呼ばれる)の中で作られる。大きく広がる低密度のガス雲から星の生産現場である高密度のガス雲が形成され、さらに高密度ガス雲の中でも特に密度が高い場所で星が作られる。しかし実際に遠い銀河で観測される星の生産量は、 低密度ガス雲の量をもとに推測される量に対して、わずか1000分の1以下にすぎない。この不一致が起こる理由を解明するためには、 広い領域を高い解像度で観測し、高密度ガス雲と低密度ガス雲を同時に解析することが必要であったが、これまでは観測技術的な困難が生じていた。

 

 この困難を克服したのが、国立天文台野辺山宇宙電波観測所の45メートル電波望遠鏡と、 それに搭載された新型受信機「FOREST」を用いた天の川の大規模分子雲サーベイプロジェクト「FUGIN」(フージン)である。FUGINは、かつてない規模で、天の川の広大かつ詳細な分子雲の姿を明らかにする観測プロジェクトで、 一酸化炭素分子の同位体が放射する異なる電波をとらえることで、世界ではじめて低密度ガスと高密度ガスの広域かつ詳細な分布を描き出し、 分子雲の全貌を明らかにすることに成功した。データは数百万個にもなる分子雲を含んでおり、天文学の貴重な遺産となりうるビッグデータである(図1)。

 

 今回研究チームは、このFUGINから得られた低密度ガスと高密度ガスのデータを解析し、天の川銀河の2万光年にわたる範囲を対象に、 低密度ガスと高密度ガスの量を精密に測定した(図2)。その結果この範囲に含まれる低密度ガスの総質量が太陽1億個分、 対する高密度ガスが太陽300万個分になることがわかった(太陽質量はおよそ2.0×10の30乗kg)。この結果から、 分子雲に含まれる高密度ガスの質量の割合を求めると3%にしかならない。

 

 理論的には低密度が自身の重力で自由に高密度ガスを作った場合、分子雲の大部分が高密度ガスで満たされてしまい、低密度ガスがほとんどなくなると計算される。しかし今回の観測結果はその逆で、高密度ガスがほとんど作られていないことが判明した。 このことは分子雲の量の割に作られている星の数が少ないことを示しており、何か高密度ガスの形成を阻害しているものがあり、そのために生まれる星の数も減ってしまっていると考えられる。また今回の研究からは、天の川銀河の渦状腕で高密度ガスが若干多く(質量比およそ5%)、渦状腕と渦状腕の間の空間や、 棒状構造では1桁以上高密度ガスが少なく(質量比0.5%以下)なることもわかった。ただでさえ少ない高密度ガスが、 渦状腕以外の場所ではほとんど作られていなかったことを示している。

 

 研究チームは低密度ガスから高密度ガスが作られる割合が少ない原因、そして高密度ガスから作られる星の数が理論的な考察よりもはるかに少ない理由を解明すべく、今後もFUGINデータの解析を進めていく予定である。

 

 

図1 ( C ) 国立天文台

(左)野辺山宇宙電波観測所で撮影した星景写真とFUGIN観測領域。(撮影:岡部統一)
(右)FUGINプロジェクトで得られた天の川の分子雲の分布の様子。 上段と中段:分子雲の3色電波画像。赤が(12) CO 、緑が(13) CO 、青がC(18)Oの分子からの電波強度を示している。 下段:低密度ガス(左)と高密度ガス(右)の電波強度画像。低密度ガスは(12)COで、高密度ガスはC(18)Oで検出される。 低密度ガスに比べて、高密度ガスがほんのごく一部でのみ検出されていることが分かる。  () 内の数字はいずれも次の化学記号に対する左上付き数字。

 

 

 

図2 ( C ) 国立天文台

天の川を上から見下ろした想像図に、今回データを解析した範囲を太い実線で示した。薄い赤色はFUGINの観測範囲を示している。