8月21日

 

 東北大学大学院理学研究科栗林貴弘准教授を中心とする共同研究グループは7日、日本最古の日立鉱山不動滝鉱床(約5.3億年前に形成された)の鉱石から新鉱物を発見し、「日立鉱」(化学式はPb5Bi2Te2S6、(*数字は全て右下付数字)と命名したことを発表した。国際鉱物学連合の新鉱物、鉱物の記載や分類に関する委員会において、今回発見された鉱物が新鉱物であるかどうかの審査が行われ、2018年6月に承認された。茨城県からの新鉱物の発見は初めてであり、鉱物名は鉱物の産地である日立鉱山にちなんでいる。今回発見された日立鉱の化学組成・結晶構造から、鉱物の分類について新しいシリーズが提案され、未知鉱物の発見の手がかりを得ることにつながるとしている。さらにこの発見は、地球科学的見地から鉱床の生成当時の環境の推定・制約に役立ち、新規材料物質開発への寄与も期待できるとしている。

 

 鉱物の分類は化学組成と結晶構造の類似性でグループ化されており、シリーズと呼ばれる。発見された日立鉱の理想化学式はPb5Bi2Te2S6、(*数字は全て右下付数字)であり、新鉱物名を申請する際に、日立鉱は硫化鉱物、硫テルル蒼鉛鉱グループ(硫テルル蒼鉛鉱は1831年に発見された)に分類された。なおこのグループの分類については国際鉱物学連合において再検討が進められている。

 

 研究グループは今回発見された鉱物について、関連するいくつかの鉱物をPb-Bi-(Te+S)の三角図(図1)にプロットした。その結果化学組成が直線的な関係になる鉱物のシリーズの存在が明確になった。この新たなシリーズの化学構造を決定する目的も兼ねて、今回発見された日立鉱の結晶構造を決定するために、放射光単結晶X線回折実験(*放射光については注1)を行った。その結果、日立鉱の結晶構造を決定することに成功し、新しいタイプの結晶構造であることが判明した。また化学組成と結晶構造に基づく考察から、日立鉱のシリーズがBi2Te2S(数字は右下付数字)・nPbS  (n=5が日立鉱)で表されることを示した。この情報はこれまでの硫テルル蒼鉛鉱グループの分類を修正するものであり、日立鉱の発見は鉱物分類に新たな知見を加える非常に重要な発見であるとしている。

 

 新シリーズの化学組成式に基づくと、n=3と4の鉱物は未発見であり、新たな鉱物種として発見される可能性がある。今後の課題としては、現在の硫テルル蒼鉛鉱グループにはいくつかのシリーズが混在し分類上複雑な状況であるため、今回の発見も含めてより体系的な分類を進めていくことがあげられている。また日立鉱山不動滝鉱床は海底熱水鉱床を起源とする鉱床であることから、海底で形成される熱水鉱床には日立鉱が普遍的に存在すると考えられ、地球科学的な見地から、鉱床の生成環境(鉱物の沈殿条件)の推定・制約に役立つ。そして材料化学的には、日立鉱はトポロジカル絶縁体・超伝導体物質として非常に注目されている硫テルル蒼鉛鉱(Bi2Te2S、数字は右下付数字)と化学組成と結晶構造の両面で密接に関連している。したがって硫テルル蒼鉛鉱グループに関係する新規材料物質の開発にも寄与する可能性がある。

 

 

図1 ( C ) 東北大学

 

*注1
高エネルギーの電子など荷電粒子が磁場の中で、ローレンツ力などによって曲げられるときに、放射される電磁波を放射光と呼ぶ。赤外線からX線にかけての幅広い波長の光を含む。本研究では、このうちX線の波長領域の電磁波を使用している。放射光施設では、実験室に比べて圧倒的に強力なX線を利用することができ、最先端の研究活動に利用されている。「はやぶさ」により持ち帰られた岩石片も高エネルギー加速器研究機構内のフォトンファクトリーで詳しく調べられた。