8月28日

 

 NASAは9日(現地時間)、チリ・カトリック総合大学のファビオ・ヴィト氏を中心とする研究グループがチャンドラX線望遠鏡を用いたクウェーサー(PSO167-13)の観測により、これまでの観測より最も遠いところにある、ガスで覆われたブラックホールを発見したと発表した。このブラックホールは宇宙年齢の約6%の年齢(ビッグバンが発生してから8億5000年後)であるため、ブラックホールが宇宙初期の時代においてはガスに覆われていたことを示唆している。

 

 太陽の100万から10億倍ほどの質量をもつ巨大ブラックホールは、まわりを取り囲むガス円盤から物質を吸収することによって成長する。成長が早いとブラックホールのまわりの狭い領域において大きな光を放出する。このような光り輝く天体はクウェーサーと呼ばれる。

 

 現在の天文学理論では、密度の高いガスの塊による巨大ブラックホールの周りへの物質の供給が、巨大ブラックホールの成長を早めていると考えられている。そしてこのブラックホールを取り囲むガスがクウェーサーからの光をさえぎっているわけであるが、ブラックホールがこのガスを吸収しきると、ガスはなくなり、ブラックホールとクウェーサーが姿を現すのである。

 

 今回の研究に携わった研究主任者である、ファビオ・ヴィト氏は「ガスで覆い隠された段階にあるクウェーサーからの光は、現在ある光学機器ではなかなか検出できない。チャンドラX線望遠鏡によってそれが可能になった」と今回の発見の意義を強調している。

 

 今回の観測対象となった天体はPSO167-13と呼ばれるクウェーサー天体であり、パンスターズ計画によってハワイの光学望遠鏡によって初めて発見された天体である。今回の観測では16時間に及ぶチャンドラX線望遠鏡によって、強いエネルギーをもつX線を検出することに成功した。弱いエネルギーのX線はガスによって吸収されていることがわかるため、このクウェーサーはガスによって覆われていることがわかる。しかしこのPSO167-13が率いる銀河は対になる銀河が存在しているため、今回発見されたX線がどちらの銀河から来ているものなのかは決めることができていない。どちらの銀河からきたX線でも、これまで発見された最も遠いガスで覆われたクウェーサーを発見したことになる。距離でいうとビッグバンが発生してから8億5000年経過したところである。これまでの記録はビッグバン発生から13億年経過したところの距離のものであった。

 

 研究グループは今後このX線がPSO167-13もしくは伴銀河のどちらからきたものなのかを特定するとともに、より多くのガスで覆われたブラックホール天体を探っていく予定だとしている。研究グループの1人であるイタリアのボローニャにあるINAFのロバート氏は、「宇宙初期における巨大ブラックホールの大半がガスで覆われていたのではないかと推測している。この推測を確証に変えるには、どのようにして巨大ブラックホールが太陽質量の10億倍もの巨大ブラックホールに成長するのかを理解するとともに、観測することが重要である」とコメントしている。

 

 

( C ): X-ray: NASA/CXO/Pontificia Universidad Catolica de Chile/F. Vito; Radio: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO); optical: Pan-STARRS

 

今回観測対象となったPSO167-13クウェーサー天体の可視画像。右下はX線画像とラジオ波長帯の画像。