9月4日

 

 カリフォルニア大学バークレー校のインキー・ド・ペーター氏を中心とする研究チームは8月27日、アルマ望遠鏡を用いて木星を観測し解析を行った結果、表層のアンモニアの氷でできた雲の下にあるアンモニアガスの3次元分布図を作成することに成功したと発表した。また今回初めて木星表層で水蒸気の対流により大規模なアンモニアガス噴出が起こった後の下層大気を調査することにも成功した。

 

 木星の大気は、主に水素とヘリウムで構成されており、メタン、アンモニア、硫化水素、水などの微量ガスが含まれている。木星の表層の雲はアンモニアの氷でできており、その下に硫化水素アンモニウムの粒子の層がある。そしてさらに深く、表層から80km下には水(液体)の雲がある。表層の雲は地球から見られる茶色と白の独特な帯を形成している。また大赤斑もしくは木星の嵐とも呼ばれる、地球3つ分くらいの大きさにもなる渦が見られる。木星の嵐の多くは、茶色と白の帯の内側で起こっている。地球上で発生する雷を伴った嵐と対比され、しばしば雷と関連づけられる。木星の嵐は、可視光の波長では小さな白い雲のように見える。この雲は、「プルーム」と呼ばれ、プルームの噴出は、茶色と白の帯を大きくかき乱す可能性があり、数か月または数年にわたって見ることができる。

 

 これまでに様々な木星の大気の観測が行われてきたが、主に可視光観測が行われてきたため詳細な大気の様子を調べることはできなかった。そして表層大気の下層部の構図と木星の嵐がどのようにして起きるのかの謎を解決するためには、電波観測によっても木星を調査することが必要とされていた。

 

 研究チームはプルームと南赤道帯の下層の大気を調査するため、アルマ望遠鏡を使って電波観測を行った。そしてほぼ同時期に他の望遠鏡で観測された紫外線・可視光線・赤外線の画像とアルマ望遠鏡の電波画像とを比較した。(なおアルマ望遠鏡による電波画像は、2017年1月、アマチュア天文家が木星の南赤道帯でプルームの噴出を観測した数日後に撮影された。最初に小さな白いプルームが見え、その後南赤道帯で大規模な乱れが観測された。この現象は数週間にわたって続いたものである。)

 

 その結果、木星に渦巻くアンモニアの雲から50km下までの大気の様子を捉えることに成功し、木星の表層で大規模な噴出が起きている間、高濃度のアンモニアガスが上層へ引き上げられていることが初めて明らかになった。この結果は大気の下層にある水の雲の水蒸気の対流によってプルームが引き起こされるという現在の理論を裏付けることができるとしている。プルームは、大気の深層から上層へアンモニアガスを引き上げ、さらには表層のアンモニア雲にまで至る。今回の解析結果に対して米国国立電波天文台(NRAO)のブライアン・バトラー氏は、「今回のアルマ望遠鏡のミリ波で観測されたアンモニア分布図は、米国の電波干渉計VLAのセンチメートル波で観測された図を補完しています。どちらの図も、可視光で見える雲の下を調査したもので、アンモニアを豊富に含んだガスが引き上げられて上層の雲を形成し、アンモニアの少ない大気が沈降することを示しています。」とコメントしている。

 

 

( C ) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), I de Pater et al.; NRAO/AUI NSF, S. Dagnello

アルマ望遠鏡による木星の電波画像。明るい帯は高温域、暗い帯は低温域を示している。暗い帯は、大気が上昇する領域に対応しており、可視光では白く見える。明るい帯は、大気が下降する領域に対応しており、可視光では茶色く見える。この画像には10時間以上のデータが足し合わされているため、木星の自転によって細部が塗りつぶされている。

 

 

( C ) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), I de Pater et al.; NRAO/AUI NSF, S. Dagnello; NASA/Hubble

アルマ望遠鏡による木星の電波画像(上)とハッブル宇宙望遠鏡による可視光の画像(下)。 南赤道帯での噴出の発生は、両方の画像で見ることができる。