9月25日

 

 国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)、東京大学、国立環境研究所の研究グループは13日、全球非静力学大気モデル「NICAM」を用いて、100年後を想定した将来地球のシミュレーションデータを解析した結果、熱帯域の積乱雲の集団が小規模化(雲の非組織化)する可能性があることを発見したと発表した(図1)。積乱雲の集団の小規模化は、雲が全天にわたって広がりやすいことを示しており、地球からの熱放射を妨げるため地球温暖化につながる重要な問題とされている。

 

 熱帯域は地球の熱収支を決める主要な領域であるとともに、熱帯域の雲は地球規模の大気の流れを駆動するエネルギー源の役割を担っている。熱帯域の背の高い積乱雲群に伴って大気上層に発達する上層雲(*注1)の広がりの変化は、地球の昇温量を正確に見積もる上で重要であり、積乱雲が組織化(より狭い領域に集中して発達)するとその周辺では晴天域が増えることになる。積乱雲が組織化されていると、大きな赤外放射によって地球に溜まった熱は上層雲に遮られることなく効率的に宇宙へ放出されるが、その逆に雲の組織化が弱まると雲が広い領域に分散して地球を覆うことで宇宙への赤外放射が弱められることになり温暖化を強めるとされている。

 

 雲の組織化に関するこれまでの研究は、水平方向に均一な大気を想定したり、地球が海で覆われたような簡単化した大気を用いたり、雲による循環をしっかり計算していないという問題点があった。そこで本研究では、海や陸の分布、海面温度の空間分布やその変化を考慮し、かつ、雲の生成・消滅を詳細に計算することで、より正確な雲の将来予測を行った。具体的にはNICAMによる現在と約100年後を想定した地球大気の水平メッシュ間隔14kmの高解像度気候シミュレーションデータを用いて、雲の組織化を表す指数(*注2)を評価した。熱帯域をおよそ1000km四方の領域に分けて、それぞれの領域ごとの雲の組織化の度合いを調べた結果、赤道周辺のインド洋や東南アジアといった特に対流活動が活発に起きている領域の赤道上で、この数値が減少することがわかった(図1)。また、熱帯域の大循環の強さと雲の組織化の強さを表す指数の間には強い正の相関があり、熱帯域の大気大循環に伴う上昇流が強いほど雲が組織的に発達しているという関係があることから、温暖化によって大気大循環が弱まったことで雲の組織化も弱まったこともわかった(図2)。

 

 雲の下にできる冷気塊(*注3)もまた、雲の組織化の強さを反映している現象の1つである。熱帯域の冷気塊のサイズ分布を比較したところ、温暖化した大気ではより小さなサイズの冷気塊の個数が増加し、より大きなサイズの冷気塊の個数が減少していることが判明し、この結果からも雲の組織化が弱化していることが確認された。地球は宇宙に赤外線を射出することで自分自身を冷やそうとしている。雲が非組織化すると雲の分布が散逸的になり、地球大気はより広い領域で雲に覆われることになる。その結果効率的な赤外放射を妨げ温暖化を強めることにつながる。

 

 熱帯域の大規模で組織化した積乱雲群が発生すると、遠く離れた日本の天候にも大きな影響を及ぼす。「マッデン・ジュリアン振動」がその顕著な例とされており、暖冬の要因ともなっている。また雲が組織化した顕著現象の例として台風が挙げられる。台風は熱帯で発達し約3000kmを移動して日本へやってくるが、熱帯域の雲の組織化が弱まると暖冬の頻度や台風の数の減少につながる可能性がある。これらの自然現象は日本における生活に密接に関わるため、更に雲の組織化を詳しく研究することには意義がある。また、より高精度な将来気候予測を行うためにはNICAMのような気候モデルの改良とともにそれを運用できるスーパーコンピュータの開発も重要となるとしている。

 

*注1 上層雲:高度がおよそ7km以上にできる雲で、巻雲のような薄い雲は太陽光を通しやすく、地球表面からの赤外放射を通しにくいという性質をもつ。

 

*注2 雲の組織化の指標:雲が組織化されたところでは上昇流が発生し、その周囲では下降流が発生する。雲が組織化されているほど上昇流の発生域は狭く、下降流域は広くなる。そこで本研究では、下降流域の面積の割合を雲の組織化の指標とした。この指標の値が大きいほど雲による上昇流域の割合は小さくなり(雲はより狭い領域で発達している)、雲の組織化が強くなっていると判断される。

 

*注3 雲に伴う冷気塊:雲域ではしばしば雨が発達するが、雨粒の一部が落下中に蒸発することで周囲の空気が冷やされて重くなる。この冷たく重い空気が雲周辺の地表面付近に溜まることでつくられる。

 

 

( C ) JAMSTEC

図1 熱帯域における約100年後の雲の変化予想。カラーバーは雲の組織化を表す指標であり、現在を0としたとき雲の組織化が進んだところは正の値(暖色)、非組織化が進んだところは負の値(寒色)となる。全体として非組織化の進む割合が大きい。

 

 

( C ) JAMSTEC

図2 縦軸を雲の組織化を表す指標、横軸を大気循環の強さとして図1の結果をプロットしたもの。約100年後、温暖化によって大気大循環は弱まり、雲の組織化も弱まることがわかる。