10月9日

 

 理化学研究所、国立天文台などの国際共同研究チームは3日、アルマ望遠鏡、すばる望遠鏡、欧州の VLT 望遠鏡などを駆使した観測により、地球から 115 億光年離れた宇宙において、銀河と銀河をつなぐように淡く帯状に広がった「宇宙網」と呼ばれる水素ガスの大規模構造を初めて発見したと発表した (図1)。観測対象はみずがめ座の方向にある遠方銀河が群れ集まった領域である原始銀河団 SSA 22 であり、X 線からミリ波にわたる幅広い波長にわたる多様な観測によって、18 個の活発な星形成銀河や巨大ブラックホールが 400 万光年の範囲で宇宙網に沿って形成されていることを発見した。今回の発見は、初期宇宙における銀河や巨大ブラックホールの成長の源となった水素ガスの供給機構の解明に大きく貢献する重要な成果であるとしている。

 

 地球から100億光年以上離れた太古の宇宙では銀河が活発に生まれ育つ時代があったことが、これまでの宇宙の観測からわかってきている。その初期宇宙には私たちの住む天の川銀河の数百倍から数千倍もの速さで星を生み出す銀河が存在しており、銀河の中心では太陽の約1億倍という大きな質量を持つ巨大ブラックホールが急速な成長を遂げていたと考えられている。これらの銀河や巨大ブラックホールを成長させるために欠かせない原材料が、水素を主成分とするガスである。現在の銀河形成モデルによると、このガスが「宇宙網」と呼ばれるクモの巣状のネットワークを形成し、その中でガスの凝集が進み、銀河や巨大ブラックホールが形成・成長すると考えられている。したがって宇宙網の観測は、銀河形成モデルを検証し、過去の宇宙における銀河と巨大ブラックホールの形成、進化を解明する上で欠かすことができない。しかし宇宙網が放つ光は非常に弱く、最大級の望遠鏡の集光力をもってしてもこれまで宇宙網の観測は困難であった。

 

 国際共同研究チームは宇宙網の姿を捉えるべく、みずがめ座の方向、地球から 115 億光年離れた SSA 22 原始銀河団を観測することとした。この領域はこれまでにも活発に星を生み出している銀河や成長を続ける巨大ブラックホールの存在が知られており、その周囲に宇宙網が存在しているかどうかが大きな関心事となっていたからである。最初にアルマ望遠鏡を使ったミリ波の観測により、星から温められた塵を捉えることで活発に星を生み出している銀河を見つけることで、活発な銀河や巨大ブラックホールがどのようにどれだけ分布しているのかを示す銀河と巨大ブラックホールの地図の作成を行った。さらに X 線による巨大ブラックホールの探査を行い、見つけた天体までの距離を決定する分光観測をミリ波や赤外線で行った。その結果400 万光年ほどの範囲に、18 個の活発な銀河や巨大ブラックホールが密集して存在していることが明らかになった。


 本題の宇宙網を捉えるには可視光による観測が必要になる。宇宙網の主な成分である水素ガスは銀河や巨大ブラックホールからの光を受けて、紫外線の波長域で発光することが知られている。遠方宇宙からの光は宇宙膨張によって波長が長くなり、可視光でこの光を観測することができる。すばる望遠鏡の広視野カメラ Suprime-Cam (シュプリーム・カム) でこれまでに撮像された画像を解析した結果、銀河や巨大ブラックホールをつなぐように、広がった水素ガスの光がおぼろげながら見えてきたのである(図2)。この光をさらに詳しく調べるため、欧州の VLT 望遠鏡による追観測を行った。VLT 望遠鏡に搭載された MUSE という観測装置を使うことで、2次元の画像だけでなく、スペクトルを含む3次元の情報を一気に得ること (面分光) ができる。観測の結果、水素ガスの大規模な帯状の構造が存在することが初めて確かめられた。

 

 こうして、X 線、可視光、赤外線、ミリ波とさまざまな観測を組み合わせることで、星形成の活発な銀河、巨大ブラックホール、宇宙網を網羅した3次元地図を描き出すことに成功した(図3)。この図を見ると、銀河や巨大ブラックホールが宇宙網に沿って分布していることが明らかである。

 

 今回の研究結果は、宇宙網に沿ってガスが銀河や巨大ブラックホールに流れ込み、そのガスを材料として銀河や巨大ブラックホールが成長するという理論・シミュレーションによる予測を観測の面から支持するものとなった。研究チームは、初期宇宙でどのように銀河や巨大ブラックホールが形作られていったのか、そして宇宙網がその進化をどのように制御したのかがさらに詳しく調べられていくであろうと今後の期待を述べた。

 

 

( C ) 理化学研究所

図1 今回、地球から 115 億光年離れた宇宙において見つかった「宇宙網」と呼ばれる水素ガスの大規模構造。青い部分が水素ガス、背景がすばる望遠鏡 Suprime-Cam による可視光観測で得られた天体地図。

 

 

 

( C ) 理化学研究所

図2 すばる望遠鏡 Suprime-Cam で撮像された画像で見えてきた、広がった水素ガスの光。

 

 

( C ) 理化学研究所

図3 今回見つかった宇宙網の3次元分布の様子。青色が比較的淡く見える部分、紫色が比較的明るく見える部分を表している。銀河や巨大ブラックホール (赤の四角印) が、宇宙網に沿って分布していることがわかる。