10月16日

 

 近畿大学総合社会学部のパトリック・ソフィア・リカフィカ准教授と国立天文台の伊藤孝士助教からなる研究グループは9月27日、地球型惑星である水星、金星、地球、火星の軌道、質量、水の起源について、約46億年前の初期太陽系に存在した原始惑星系円盤の数値シミュレーションをコンピュータ上で行った結果、従来の理論モデルでは地球型4惑星の形成が十分には説明できないことが立証され、またそれらが形成されるための必要な条件をいくつか見出すことに成功したと発表した。従来では原子惑星系円盤における微惑星及び原子惑星は等密度もしくは、一部分の領域に集中するモデルが提案されていたが、今回の研究によると原始惑星系円盤のある領域を境に、内側と外側に密度が小さい領域が存在するモデルが地球型4惑星形成のモデルとして妥当であるとしている。その他にもいくつかの惑星形成の条件を見出した。

 

 約46億年前、原始惑星系円盤(以下「円盤」)中で重力の影響を受け微惑星(*注1) が互いに衝突を繰り返すことで、現在の水星、金星、地球、火星が誕生した。地球型惑星の起源と進化を巡っては、未だ解明されていないことが多くある。例えば、

 

・地球の水はいつ、どこから、どのように供給されたのか
・初期太陽系時に存在した水が地球上に生命をもたらしたように、水星・金星・火星に供給された水は生命の発生に貢献できたのか
・地球の形成過程の末期に発生し月を形成したとされる巨大衝突は具体的にいつ起きたのか
・水星と火星の軌道は楕円の程度が大きく、質量も小さい一方で、金星と地球は軌道がほぼ円であり質量も水星・火星より数倍大きいのはなぜか

 

 水星・金星・地球・火星の軌道と質量の正確な再現に成功した数値シミュレーションは先行研究においては達成されていないと考えられており、とりわけ水星と火星の質量が小さいことの説明はまだ十分になされていないとされている。

 

 研究グループは、こうした地球型惑星の謎を解き明かすため、コンピュータシミュレーションで46億年前の太陽系における地球型惑星の軌道と質量の再現(惑星アナログの形成(*注2))姿を再現することを試みた。具体的には幾つかの先行研究から推定される様々な円盤(どれも微惑星と惑星胚 = embryo(*注3) から構成される)から出発し、微惑星が集積して惑星が形成される様子を数値計算し、その結果をもとに形成された多種類の地球型惑星系を分類して、各惑星の特徴を分析した。その結果、従来初期太陽系に関して信じられているGrand Tackモデル(*注4)では、円盤から出発しても現在の地球型4惑星は形成し難いことが判明した。その理由として円盤から形成される水星と火星はそれぞれ金星と地球に近すぎる位置に作られることが挙げられる。またこうしたモデルから出発すると、形成された惑星のうち水星の全ておよび火星の大半は質量が大きすぎること、月を形成する巨大衝突が原始地球に対してかなり早期に頻発すること、そして地球に供給される水の量が一般に少なくなりすぎることもわかった。

 

 そして様々なシミュレーションを行った結果、地球型4惑星が形成されるために円盤が満たすべき主な条件について示唆が与えられた。1つ目は円盤の質量は現在の太陽系において金星と地球の間、地球と火星の間の狭い領域に集中する必要があること。次に、円盤は現在の水星軌道の辺りに内側の境界を持つこと。また、現在の地球軌道付近以遠では円盤の質量密度が低下すること。さらに、円盤に対して重力的な摂動(*注5) を与える木星と土星の軌道は楕円の程度がそこそこ大きいことである。以下に地球型4惑星形成の条件を示す。

(1) 円盤の質量は0.7-0.9 au(金星と地球の間) と1.0-1.2 au(地球と火星の間)の狭い領域に集中する。
(2) 円盤の質量の80%以上をembryoが担う(微惑星が担うのは20%以下)。
(3) 円盤は0.3-0.4 auに内端を持つ。
(4) 円盤には1.0-1.2 auから始まる低質量の外部領域がある。
(5) 円盤に対して摂動を与える木星と土星は無視できない離心率を持つ(各々0.02-0.1と0.07-0.15)。

 

このような円盤内では地球型4惑星への水供給が従来言われていた円盤よりも効果的であり、地球の水の起源の解明にも近づいたと言えるとしている。また、初期太陽系においては地球に対してのみならず水星・金星・火星にも大量の水が供給されたことが示唆され、水の一部は現在においても地下に潜んでいる可能性がある。

 

 今回の研究結果は地球型4惑星が形成されるための円盤が満たすべき条件をおおまかに明らかにしたが、より具体的で定量的な円盤の特徴はまだ解明されたとは言えないとしている。特に、金星と地球から離れた軌道を持つ小質量の水星・火星の同時形成を再現する円盤の初期モデルはまだ提唱されていない。そのため、更なる理論モデルの構築と新たな数値シミュレーションが必要であるとしている。研究チームは水星、金星、地球、火星の軌道と質量の再現ができれば、それらの惑星の力学的・地質学的進化や水と有機物質の起源といった重要な問題への解決へ一層近づくと今後の期待を述べた。

 

 

*注1 微惑星 : 初期太陽系時に原始惑星系円盤の中で存在した無数の天体。現在の太陽系における衛星や惑星は多数の微惑星で作られたと考えられている。

*注2 惑星アナログ : 実際の惑星と類似する天体のこと。

*注3 embryo : 惑星胚を指し、初期太陽系時に存在した月~火星に匹敵する大きな微惑星。

*注4 Grand Tack : 「太陽から 3.5 au の軌道で形成された木星が、より内側の 1.5 au の辺りまで移動し、さらに土星との軌道共鳴の影響を受けて反転し、現在の 5.2 au の軌道で停止した」とする、惑星物理学における仮説。
*注5 摂動 : 主要な力による運動が、他の副次的な力によって乱される現象。