10月23日

 

 フェリペ・アルブス氏(マックスプランク地球外物理学研究所)を中心とする研究チームは18日、へびつかい座のパイプ星雲中にある小さな星団をアルマ望遠鏡によって観測した結果、プレッツェル(ドイツのお菓子)のような形に広がる物質に取り囲まれた双子の赤ちゃん星の姿を観測することに成功したと発表した(写真1)。この宇宙プレッツェルは、いわば双子星の「へその緒」であり、双子星の成長過程でどのように物質が星たちに取り込まれていくのかを調べるうえで、たいへん貴重なデータであるとしている。

 

 今回観測された双子の赤ちゃん星は、へびつかい座のパイプ星雲の中にある。タバコを吸うパイプの形に似たこの星雲のなかで、吸い口にあたる場所にはバーナード59と呼ばれる暗黒星雲(*注1)がある。そしてここには小さな星団があり、その中でも最も若いのが、今回観測された[BHB2007] 11という符号をもつ原始星である。これまでも、[BHB2007] 11のまわりのガスのようすは観測されてきたが、星のすぐそばのガスの分布は明らかになっていなかった。

 

 今回の研究チームは[BHB2007]11のまわりのガスの分布を調べるべくアルマ望遠鏡によって観測を行った結果、プレッツェル(ドイツのお菓子)のような形に広がる物質に取り囲まれた双子の赤ちゃん星の姿を観測することに成功した。フェリペ・アルブス氏は「真ん中に見える2つの点が、双子星のすぐそばを取り巻いているガスと塵の円盤だと考えています。それぞれの円盤のサイズは、太陽系で言えば火星と木星のあいだにある小惑星帯と同じくらいです。ふたつの円盤の間隔は、地球と太陽の間隔のおよそ28倍です」とコメントしている。この間隔は、太陽系では太陽と海王星の間隔に相当する。さらにこの2つの星周円盤は、さらに大きく複雑な形のリングに取り囲まれている。このリングはまるでハート形あるいはプレッツェルのような細長い塵とガスの帯になっている。研究チームがこのリングの質量を見積もった結果、木星80個分の質量に及ぶことが判明した。

 

 研究チームの一員で、マックスプランク地球外物理学研究所のマネージング・ディレクターであるパオラ・カセリ氏は、「これらの観測及び質量の解析結果は本当に重要な結果です。私たちは初めて、母体となるガス雲と双子原始星をつなぐ「へその緒」のような構造を発見したのです。この「へその緒」づたいに流れてくるガスや塵を取り込むことで、星たちは成長していくのです。」とコメントしている。

 

 原始星がガスや塵を取り込む過程は、2段階に分けられる。まず初めに、撮影されている範囲よりも外側から、今回明らかになった複雑な形の「へその緒」を通ってそれぞれの星のまわりの円盤にガスや塵が流れ込む。写真では下側に見えている星周円盤のほうに、より多くの物質が降着し電波で明るく輝いている。その次の段階として、円盤からその中央にある原始星に物質が取り込まれる。アルブス氏は「この連星系のまわりの物質は、とても複雑な動きをしながら、それぞれの星に2段階のプロセスを経て降着しているのだと私たちは考えています。この観測結果は理論的な研究結果ともよく一致していますが、多重連星系がどのように作られるのかを理解するためには、他の若い連星系の観測をもっと行う必要があります」と今後の抱負を述べている。

 

*注1 光を遮る星間の塵の雲であり、可視光観測では黒く見える。パイプ星雲内ではガスと塵からなる分子雲コアが形成され、星が形成されている。

 

 

( C ) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Alves et al.

写真1

アルマ望遠鏡が撮影した、双子原始星[BHB2007] 11のまわりをプレッツェルのように取り巻くガスと塵。双子原始星が互いの周囲を回りあうことにより、ガスと塵が複雑な形に広がっている。