11月9日(土)

 

 ESA(欧州宇宙機関)は6日、ISS(国際宇宙ステーション)において外科手術に用いられる人工血管を作り出すことに成功したと発表した。宇宙の微小重力下において、人体の血管の内皮細胞を利用した培養細胞が、多くのサポートを必要とせずに自然に血管の基本的な構造をつくりあげるとしている。

 

 地球上で人工血管を細胞から作り出す場合には、スキャフォールドと呼ばれる、細胞が共存できる足場が必要である。宇宙においても人工血管を作り出すにはスキャフォールドが必要であり、人工血管のもととなる細胞の輪郭をくっきりとさせること、細胞がお互いにくっつくことを助けるために利用される。そしてこれらをもとに宇宙における実験において培養細胞が微小重力においても、多くのサポートを必要とせず、自然に基本的な血管ができることを示した。

 

 この実験は2016年から始められており、回転楕円体実験と呼ばれる。培養細胞として人体の血管の内皮細胞が利用され、微小重力に反応しどのようにして血管の内側の層ができるかを示すことができる。内皮細胞は血管の縮小、拡大を調整し、臓器への血流や血圧を決めている。また内皮細胞は地球上では年をとるとともに衰えていくことが知られている。

 

 今回の実験では、宇宙における培養細胞が適切な温度を保った培養器において12日間かけて血管のような管状の構造になることを示した。

 

 2016年に実験を始めたダニエラ・グリム氏(ドイツのマクデブルクにあるOtto von Guericke大学)は「宇宙における管状の構造になった細胞の集合体は、我々の人体における血管の基本的な構造に似ていて、地球上の培養細胞実験では同じことはなされていない。つまりこれまでは誰も培養細胞が宇宙においてどのように反応するかは知らなかった。回転楕円体実験は最初から興味深い実験となっている」とコメントしている。

 

 宇宙で血管のような管状になった構造を持つ細胞はサンプルとして地球上に持ち帰られるたびに、科学者達はそのサンプルをみて回転楕円体の3次元構造をした細胞に驚かされる。マーカス氏(ドイツのマクデブルクにあるOtto von Guericke大学の分子科学者)は「細胞の管状構造は、重力がたんぱく質と遺伝子相互に重要な影響を与えることによって形成されるという、新たな知見と結果が得られた。」とコメントしている。

 

 ESAの研究者達は引き続き、培養細胞がどのようにして蓄積して回転楕円体となり、それがなぜ引き起こされるのかについて調べていくこととしている。マーカス氏は具体例として、「人工血管の細胞工学を発展するために、違う種類の細胞を培養している。違う種類の細胞と血管の内皮細胞を組み合わせることで、地球上の微小重力を再現する機械において、人工血管の様々な層を作り出すことができるようになる」とコメントしている。そして人工血管を作り出す技術が、人工血管の移植や新しい薬品を作り出す助けにもなるとしている。また宇宙における無重力状態により足まで血流がなかなか行き届かない宇宙飛行士にとっても、今回の成果の恩恵を受けることになるかもしれない。

 

 

( C ) ESA

培養された内皮細胞の様子