11月13日

 

 京都大学大学院工学研究科の小池克明教授らを中心とする共同研究グループは1日、沖縄沖海底熱水地域の海底探査を行った結果、電気を通しやすい熱水鉱床が熱水噴出孔周辺の海底面と海底下40m 付近にも存在することが明らかになったと発表した。この「海底熱水鉱床の二階建て構造」は研究チームが海中に微弱な電流を流して非破壊で地下断面図を作成する「海底電気探査」によって行われた。本研究では海底電気探査が高効率・低コストで海底下を可視化することに成功したため、今後研究者達に普及していき、今後の海底資源探査への幅広い適用が期待されるとしている。

 

 昨今の世界的な経済成長に伴って、金属資源の減耗・枯渇が懸念される中、海域の金属資源に注目が集まっている。特に、海底火山の近くで形成される「海底熱水鉱床」は鉱石の品位が高く、次世代の金属資源として期待されている。しかし海底熱水鉱床は深海の海底下に分布するため、鉱床の地下での分布・ 形状は詳しくは解明されておらず、海底熱水鉱床の形成メカニズムも不透明であった。

 

 海底熱水鉱床は海底火山の近くに分布しており、海底から噴出する高温の地下水(熱水)に含まれる金属成分が海底付近に沈殿してできたものである。海底で熱水が噴出している地域・ 海底熱水地域は世界各地に存在し、欧米諸国で行われている海底電気・電磁探査において海底熱水鉱床は金属鉱物を多く含むために電気を通しやすい性質を持つことが明らかになっている。ただし欧米諸国の海底探査手法においても、海底下の地質構造の解像度は高くはなく、海底熱水鉱床の海底下の詳細な分布は未解明のままである。

 

 日本が有する世界第6位の広さの領海(排他的経済水域・ EEZ)内にも多数の海底熱水地域が認められており、海底熱水鉱床が新たな国産資源として期待されている。これまでに沖縄沖海域や伊豆・ 小笠原海域で、海底熱水鉱床の存在が確認されており、その鉱物資源量は沖縄沖の海底熱水地域1ヶ所だけで数百万トン以上に及ぶと報告されていた。

 

 本共同研究チームは、海底下浅部を高い解像度で可視化する技術として、「海底電気探査」に注目した。これは非破壊探査(物理探査)技術の一つであり、海底付近で海水中に微弱な電流を流し、その時に発生する電圧信号を受信することで、海底下の電気の通りにくさの分布(比抵抗構造)を断面図として求める手法である。電流送信装置と電流送信用・ 受信用の電極をひとまとめにして、深海を曳航することで、高効率で海底下を可視化することができる。この海底電気探査システムを用いて、実際に2014年10月に沖縄沖海底熱水地域において探査を行ったところ、海底熱水鉱床の分布・形状を詳細に可視化することに成功した。その後研究チームは画像を解析し、その解析画像からは海底熱水噴出孔の周辺の海底面付近に電気をよく通す層(低比抵抗層)が分布しており、上下2層に低比抵抗層が分布することがわかった。また沖縄沖海底において岩石を採取し、比抵抗、金属鉱物含有量、密度、間隙率などを実験室で分析した結果、海底電気探査で発見した低比抵抗層は、熱水の影響のみで説明することはできず、電気を通す金属鉱物を9%以上含む岩石からなることが明らかになった。この金属含有率は陸上の金属鉱床に匹敵する高さであり、海底下の低比抵抗層は海底熱水鉱床であると結論づけられた。また研究チームは、海底下の比抵抗構造や地震探査・ 海底掘削調査に基づいて、海底下深部での金属資源濃集に関する新たなメカニズムを提案した(図1)。

 

 本研究によって、未解明であった海底熱水鉱床の成長モデルの検討が可能になった。これは、どんな海底金属資源がどのように集まっているかを知るための鍵となる情報であり、将来的な熱水金属鉱床での資源開発において重要な知見となる。また、実際の海底資源開発時に不可欠となる資源賦存量(理論的に算出される潜在的存在量)の正確な推定においても、海底電気探査による海底熱水鉱床の可視化の貢献度は大きいと考えられる。本探査技術が日本近海における海底熱水鉱床の探査・ 開発を促進するものとなると期待される。また世界各地には同様の海底熱水鉱床が分布しているため、本技術の海外輸出・ 日本発の海底資源開発)も将来的には可能となるとしている。

 

 

( C ) 京都大学

図1: 海底下深部での金属資源濃集に関する新たなメカニズム

まず地下深部で熱せられた地下水(海水)は熱水となり、海底面へと上昇を開始する。熱水は、水を通しにくいキャップ層の下に一旦蓄えられ、徐々に冷却される。その間に海底下深部の熱水鉱床(CD 2)が形成される。熱水の一部はキャップ層を突き破り、海底面へと達しており、そこでも熱水鉱床(CD 1)が形成される。