11月27日

 

 東北大学大学院理学研究科の松本恵助教と国立天文台科学研究部の片岡章雅助教らによる共同研究チームは22日、理化学研究所のSPring-8(*注1)による放射光X線CTを使って、炭素質コンドライトの一つAcfer 094隕石の内部を観察し、氷が抜けてできたと考えられる小さな空間を多数発見したと発表した。このことは隕石の母天体が最初は氷に富んだ惑星であり、成長していきながら太陽系内側に移動してくる際に太陽の光を受けて氷が蒸発していくことを示唆している。今回の研究成果は、太陽系をはじめとした惑星系形成シナリオの構築への新たなアプローチとして、重要な役割を担うとしている。

 

 太陽系は今から約45.7億年前に誕生した。それから数千万年の間に、宇宙の氷や塵が集まって小さな天体をつくり、それらが衝突合体を繰り返して原始惑星が形成され、さらに現在の惑星に進化したと考えられている。このような太陽系初期の天体形成過程に関する情報を現在も記録しているのが、小惑星や彗星といった太陽系の小天体である。

 

 小惑星から飛来する隕石は、リターンサンプル同様、太陽系初期の情報を記録している貴重な試料である。その中でも炭素質コンドライト(*注2)と呼ばれる隕石は、水や有機物を多く含むことから、地球の水や生命の起源を探る重要な手掛かりとされている。隕石の中には、含水鉱物と呼ばれる水と化学反応を起こした物質が含まれている場合がある。このような物質は、天体の内部で氷が溶けて岩石と反応してできたと考えられている。そのため含水鉱物の存在は、隕石のもととなった天体が内部に氷と岩石をどちらも含む天体であったという間接的な証拠として考えられてきた。しかし、隕石中の氷の存在や分布を示す直接的な証拠は、これまで隕石の研究からは報告されていなかった。

 

 隕石中に存在した氷が熱によって融けると、もともと氷があった部分には空間ができる。このような空間を観察するには、X線CTを使って3次元的に隕石内部を観察することが欠かせない。今回、東北大学の松本恵助教をはじめとする共同研究チームは、理化学研究所のSPring-8を用いた放射光X線CTによって、炭素質コンドライトの中でも特に始原的な物質を含んでいるAcfer 094隕石の内部を観察した。その結果、隕石中の氷が融けてできたと考えられるマイクロメートルサイズの空間を多数発見した(図1)。

 

 氷が無くなることでできた空間は直径10マイクロメートル程度で、隕石中にまんべんなく見られた。これについて、研究チームは惑星形成理論に基づいて以下のような考察を行った。まずは太陽系の誕生間もない頃、惑星が生まれる円盤内の低温の領域に、氷をまとったケイ酸塩粒子でできた多孔質な宇宙の塵が存在していた。そのような塵が「雪線」と呼ばれる水が氷になる温度の領域付近で太陽からの熱を受ける。そうすると塵に含まれる氷が昇華し、再び塵の表面に水分が凝集することで、数十マイクロメートル程度の氷の塊が形成されると考えられる。こうしてできた氷の塊が雪線付近で隕石の母天体となった小惑星に取り込まれ、その後小惑星が太陽からの熱をさらに受けることで氷が融けて無くなり、今回観察されたマイクロメートルサイズの空間が生じたと、研究チームは結論付けた。

 

 この氷が無くなることでできた空間の大きさは、惑星形成時に太陽系に存在していた塵の大きさを表していると考える事ができる。現在惑星形成理論において、惑星の素となる塵がどのように成長したのかは一つの重要な問題であり、塵の大きさは議論の的になっている。理論研究では多孔質な塵の塊が数センチメートルから数メートルサイズにまで成長した後に、塵同士の衝突や塵自身の重力で収縮することで惑星が形成されるという説が提唱されている。その一方、アルマ望遠鏡を使った惑星形成段階にあるとされる天体の電波偏光観測からは、塵の大きさはだいたい70マイクロメートル程度だと見積もられているこれに対し、今回隕石の観察という手段で惑星形成時の10マイクロメートル程度であるという新しい示唆が得られた。

 

 またAcfer 094隕石中には、氷が融けて生じた水により含水化したケイ酸塩粒子が多く含まれていた。一方でこれらケイ酸塩粒子中の水の量を全て賄うためには、観察された氷が無くなることでできた空間の体積から見積もられるよりも、遥かに多量の氷が必要であることがわかった。つまり隕石中の含水ケイ酸塩粒子のもととなった水分は隕石の外部から、すなわち母天体の別の場所から供給されたことを示唆している。これらの発見をもとに、研究チームはAcfer094隕石の母天体形成について以下のようなモデルを提案した(図2)。

 

1.隕石の母天体は、塵を集積して成長しながら太陽系内を外側から内側に移動する。雪線より外側では氷-ケイ酸塩粒子からなる多孔質な塵が集積することで、氷に富んだ天体に成長する。
2.成長した母天体はどんどん内側に移動し、雪線付近まで到達する。雪線付近では、氷-ケイ酸塩粒子からなる多孔質な塵が温度上昇によって、氷とケイ酸塩粒子の隙間のない塊を形成している。それらは、氷をまとわない岩石の塵と共に隕石母天体の表面に集積する。つまり母天体の内側は氷に富んだ状態に、外側はケイ酸塩に富んだ層に氷の塊が含まれた状態になる。
3.母天体はさらに円盤を内側に移動し、太陽からの熱を受ける。そうすると母天体内の氷が融けて水が生じる。外側の層に含まれていた氷の塊が融けて無くなった部分には、今回観察されたマイクロメートルサイズの空間が生じる。また中心部の氷に富んだ部分でとけた水は外側の層まで移動し、外側の層のケイ酸塩の一部が含水化する。
4.その後母天体の一部が破砕されて破片が宇宙空間に放出され、Acfer 094隕石となって地球に飛来する。

 

*注1 高速の電子ビームが磁場により曲げられた時に発生する光を放射光と呼び、赤外線、可視光、紫外線、X線など様々な波長の光が含まれている。本研究では、このうちX線を利用して隕石の内部構造を観察するX線CT実験を、兵庫県佐用町にある理化学研究所の大型放射光施設SPring-8の光電子分光・マイクロCTビームライン(BL47XU)で行った。

 

*注2 太陽系誕生当時やそれ以前の物質を保存している隕石グループの総称であり、水や有機物を多く含んでいる。日本の小惑星探査機「はやぶさ2」が着陸した小惑星リュウグウは、これまでの観測から炭素質コンドライト質の物質でできていると予想されている。

 

 

図1

( C ) Megumi Matsumoto et al.

箱型に成形した隕石試料のX線CT (8 keV)による断面像。白色の点線で囲まれた部分に、黒色の空隙が多く含まれている。もともとあった氷が抜けてできた空間と考えられる。明るい灰色~暗い灰色の物質はケイ酸塩粒子、白い物質は硫化鉄粒子を表している。

 

 

図2

( C ) Megumi Matsumoto et al.

Acfer094隕石母天体の形成過程の模式図。