1月11日

 

 ドイツのマックスプランク研究所のジェレミー氏を中心とする研究グループは10日、XMM-Newton(X線観測機器)により、2つの大きな銀河団であるペルセウス座銀河団とかみのけ座銀河団を観測した結果、ペルセウス座銀河団では銀河団内を”ばちゃばちゃ”と跳ね回るようなプラズマ流の動きをし、かみのけ座銀河団では2つの大きな銀河団が衝突し、徐々に合体しているところを捉えることに成功したと発表した。ペルセウス座銀河団内におけるプラズマガスのばちゃばちゃと跳ねるような動きは、乱気流が衝突・合体することによって生じる動きであるとしている。

 

 銀河団は重力で結びつく宇宙で最も大きなシステムをなしている。銀河団は数百から数千もの銀河で構成されており、温度が5000万度に達する多くのプラズマガスを含んでいる。プラズマガスはX線でみると輝いて見える。プラズマガスはかなりの謎がまだ残されているが、プラズマガスの動きを研究することは、銀河団がどのように構成されており、どのような進化を経て動いていくのかを理解することにつながる。今回観測対象となったペルセウス座銀河団及びかみのけ座銀河団は宇宙で最も大きな銀河団であり、X線でみてもとても輝いて見える。ペルセウス座銀河団はペルセウス座の方向約2億5000万光年の距離に位置する。そしてかみのけ座銀河団はかみのけ座方向約3億光年の距離に位置する。

 

 今回観測された、ペルセウス座銀河団内におけるプラズマガスのばちゃばちゃ跳ねるような動きは理論的には予測されていたが、今回の発見に至るまでは全く観測が進んでいなかった。ジェレミー氏はプラズマガスのシミュレーションを行うことで、小さな銀河団が大きな銀河団に衝突・合体することでガスの乱流が起こり、これらのエネルギーがペルセウス座銀河団の重力場を崩壊させて、プラズマガスのばちゃばちゃと跳ね回るような動きがおこり、落ち着くまでに百万年単位の長い期間続くことを見出していた。その一方でかみのけ座銀河団ではこのようなプラズマ流のばちゃばちゃと跳ねるような動きはなく、2つの大きな銀河団が衝突し、徐々に合体していくと予測していた。ジェレミー氏は「かみのけ座銀河団では1つの大きな銀河団があるわけではなく、2つの大きな銀河団が存在しており、それぞれの領域は、異なる動きをする物質で構成されているのだろう。そしてこのことはペルセウス座銀河団のように一つにまとまりつつある塊にはまだなっていないかみのけ座銀河団内では、多様な物質の流れが存在していることを意味している」と指摘している。

 

 ジェレミー氏はXMM-Newtonの観測データから銀河団内のプラズマガスの流れを図示化し、私たちに向かってくる方向、私たちから遠ざかっていく方向、すなわち視線方向に対するプラズマ流の速度を初めて可視化した。シミュレーション結果と比較してみると、ペルセウス座銀河団及びかみのけ座銀河団において両方ともシミュレーションと同様なプラズマ流の動きをしていることがわかったのである。

 

 

ペルセウス座銀河団内のプラズマガス流

( C ) ESA/XMM-Newton/J. Sanders et al. 2019

 

 

かみのけ座銀河団内のプラズマガス流

( C ) ESA/XMM-Newton/J. Sanders et al. 2019

青い矢印と赤い矢印がプラズマ流の流れを表しており、青い矢印は私たちに向かってくる方向、赤い矢印は私たちから遠ざかる方向のガスの流れである。矢印の長さは速度の大きさを表している。

 

 

ペルセウス座銀河団内のプラズマガス流のシミュレーション

( C ) Courtesy of J. Zuhone, Harvard-Smithsonian Center for Astrophysics

一番左の画像はX線の強さを表し、オレンジ・黄色がX線の強い部分、紫色から黒にかけてX線が弱い所を表している。真ん中の画像はプラズマガスの温度を表し、暗い赤ほど温度が高く、暗い青色ほど温度が低い。一番右の画像はガスの速度を表し、ライム色と黄色が速度が速い部分を表し、暗い青色は速度が遅い部分を表す。

 

 

XMM-NewtonがX線で捉えたかみのけ座銀河団

( C ) ESA/XMM-Newton/SDSS/J. Sanders et al. 2019