1月17日

 

 チリのポンティフィシア・カトリック大学のエゼキエル・トライスター氏らを中心とする研究チームは5日、2つの銀河が衝突段階にあるNGC6240銀河をアルマ望遠鏡によって観測した結果、2つの銀河の間にある分子ガスが混沌とした流れをする動きを発見し、質量を精密に測定することにも成功したと発表した。この研究成果は銀河がどのように進化していくかを考察していくうえで重要な成果であるとしている。またこれまでは、2つの銀河それぞれの中心にある巨大ブラックホールと分子ガスを分離して観測することができないがために、巨大ブラックホールと分子ガスであろう物質は合計して巨大ブラックホールの質量とされていた。このように巨大ブラックホールの質量にあいまいさがあったが、今回の研究成果によって巨大ブラックホールの質量の見積もりに制限を加えることができるようになった。

 

 NGC6240はへびつかい座の方向に地球から4億光年離れた場所にあり、2つの銀河が互いに衝突進行中である銀河を形成している。2つの銀河のそれぞれの中心にあった超大質量ブラックホールは、この衝突によって1つのより大きなブラックホールになると予想されている。NGC6240で何が起こっているのかを理解するため、ブラックホールを取り巻く塵や分子ガスについて詳しく調査が天文学者達によって進められており、地球から比較的近い距離にあることもあって、これまでに何度も観測されてきた。チリのポンティフィシア・カトリック大学のエゼキエル・トライスター氏は「この銀河を理解するための鍵は、分子ガスです。分子ガスは、星を作るのに必要な燃料ですが、超大質量ブラックホールにも供給されています。分子ガスは、超大質量ブラックホールを成長させているのです。」とNGC6240を理解するためのポイントについてコメントしている。

 

 今回研究チームはNGC6240で何が起こっているのかを詳細に調査するべく、アルマ望遠鏡によって観測した結果、2つのブラックホールの間の領域で、細い糸や泡のような形になった冷たいガスの混沌とした流れを見つけた。このガスの一部は、毎秒500キロメートルの速度で外に向かって放出されているが、この外に向かうガス流の原因はまだわかっていないとしている。また分子ガスを詳しく観測することにより、ブラックホールの質量を決定することができるようになった。オハイオ州トレド大学のアン・メドリング氏は「ブラックホールを取り巻く星の運動から導き出した以前の理論モデルでは、このブラックホールが我々の予想よりもはるかに大きく、太陽の質量の約10億倍もあることを示していました。一方、アルマ望遠鏡による最新画像は、どれだけのガスがブラックホールの影響範囲内に閉じ込められているかを初めて明らかにしたのです。今回の観測から求められたガスの質量は非常に大きいことがわかりました。」とコメントしている。以前の研究ではガスの総質量がわからなかったため、ブラックホール本体と周囲にあるガスの合計質量をブラックホールの質量として見積もっていた。しかし今回の観測ではガスの量を精密に見積もることができるようになったということである。アン・メドリング氏は続けて、「我々が見積もったブラックホールの質量は以前の見積もりよりずっと小さくなり、太陽質量の数億倍程度になりました。これをもとにすると、このブラックホールに対して過去に得られた多くの質量測定値は、5~90%ほど低くなる可能性があると我々は考えています。」とコメントしている。

 

 分子ガスはまた、天文学者が予想していたよりもさらにブラックホールに近い場所にあることがわかった。「分子ガスは、非常に極端な環境にあります。これらのガスは、最終的にブラックホールに落ちるか、高速で放出されると考えられます。」とメドリング氏はコメントしている。

 

 研究チームの一人であるアメリカ国立電波天文台のロレート・バルコス・ムニョス氏は、「この銀河は非常に複雑です。アルマ望遠鏡で観測した詳しい電波画像なしには、銀河内部で何が起こっているのかを知ることは決してできません。今回の観測によって、この銀河の3次元構造をよりよく把握できるようになりました。これは、合体が進む最終段階で、銀河がどのように進化するかを理解するための機会を我々に与えてくれます。数億年後、この銀河は完全に異なった姿で見えることでしょう。」とコメントしている。

 

 

( C ) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), E. Treister; NRAO/AUI/NSF, S. Dagnello; NASA/ESA Hubble

アルマ望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡で観測された銀河NGC6240。アルマ望遠鏡の画像(右上)では、分子ガスは青色、2つのブラックホールは赤い点で示されている。左はアルマ望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡の画像を合成したもの、右下は合成画像の中心部クローズアップである。アルマ望遠鏡の観測により、合体銀河のブラックホールを取り巻く分子ガスについて最も詳細な画像が得られた。