2月22日

 

 NASAは21日、チャンドラX線望遠鏡によるターザン5球状星団の新たなX線画像を公開した(図1)。2018年9月1日にICRAR(オーストラリアにある国際電波天文学研究センター)のアラシュ氏を中心とする研究チームが、チャンドラX線望遠鏡による10年分もの観測データとVLAによる観測データから、ターザン5 (Terzan5)球状星団にある連星系において、中性子星が伴星から物質を引き付けてミリ秒パルサーに変身し、その後何年か経過すると元の中性子星に再び戻るという特異な性質をもつことがあることを発表していた。このような特異なふるまいをする連星系は稀なことであり、二重人格者のようなふるまいをしていることから、宇宙のジキルとハイドと揶揄されている。

 

 ターザン5球状星団は多くの星が球状に集まっており、地球からいて座方向約2万光年離れた位置にある。今回発見された気まぐれな変化を起こす連星系は、この球状星団において発見され、CX1と呼ばれる中性子星(スーパーノヴァ爆発現象によって残された残骸が高密度に集まったもの)をもつ。伴星は太陽よりも質量は小さいが太陽に似たような星であり、CX1はこの伴星の近くの軌道を描く。

 

 ターザン5のX線画像は図1に示すように、赤、緑、そして青色で描かれている。ターザン5球状星団のCX1のように、重い中性子星は伴星である質量の小さい星から重力によって物質を引き付けて、中性子星の原始惑星系円盤に物質がたまるようになる。この物質が中性子星表面に落ち込むと、中性子星は太陽よりも重い質量を持つようになると同時に角運動量が増加し、中性子星は自身の球表面から10マイル広い部分までを含めて、より早く自転するようになる。そのスピードは1秒当たりで何百回もまわるほどである。そして高速回転する中性子星に作られた磁場によって、中性子星に運ばれてくる物質量のスピードは落ちていき、物質が磁場をつたって外に逃げていくようになるのである。このようにしてミリ秒パルサーと呼ばれる天体が誕生する。ミリ秒パルサーからは電波が発生する。

 

 天文学者たちは質量の小さな連星系における中性子星がミリ秒パルサーに進化しきるまでに何十億年もかかると予測していたが、2018年に研究チームが観測したCX1はこれらの2つの間の状態を素早く行き来することができる状態を示していた。2003年のチャンドラX線望遠鏡によるターザン5球状星団のCX1は質量の小さい連星系から放たれる明るいX線が観測された。この明るいX線は、球状星団内の他のX線よりも明るかったのである。このより明るいX線が観測されたことが、中性子星が物質を蓄積していることの証拠となっていた。2009年から2014年にかけては、2003年の観測時よりも10倍X線がおぼろげなものになっていた。このとき同時に2012年から2014年にかけてのVLAの観測によって電波が観測された。これらのX線と電波の放出量を解析したところ、ミリ秒パルサーのスペクトルと一致することが判明した。そして2016年の観測では、再びX線の明るさが強くなり、質量の小さな連星系における中性子星に戻っていたのである。これが2重人格者を表す“ジキルとハイド”と揶揄されるゆえんであり、CX1が短期間において質量が小さな連星系における中性子星とミリ秒パルサーの2つの状態を行き来していることを示した。

 

 2つの異なる状態をいったりきたりする連星系のふるまいを確かめるためには、天文学者たちにはCX1がX線がおぼろげな状態の時の電波を観測する必要がある。今後は電波とX線の観測量を増やすことでさらなる特異な性質をもつ連星系の確証が得られることが期待されている。そして中性子星がミリ秒パルサーになったり、もとの状態に戻る性質を研究することは中性子星が多くの物質を伴星からもらった時にどのようにして元の状態に戻ろうとするのか、また中性子星がどのような外層の構造を持つのかを理解することにもつながるとしている。

 

 

 

( C ) NASA

左はターザン5球状星団の可視光画像、右はチャンドラX線望遠鏡によるX線画像である。