3月15日

 

 アメリカ海軍調査研究所のシモナ氏を中心とする研究チームは2月27日、XMM-ニュートンとチャンドラX線望遠鏡によるへびつかい座銀河団のX線観測とその他電波観測のデータから、ブラックホールのガスの強大な噴出現象の痕跡を捉えることに成功したと発表した。ガスの強大な噴出現象はこれまでに確認されたきりん座にある銀河団による現象に比べて、5倍ものブラックホールのエネルギーが必要であり、かつてないガスの噴出現象が起きたとしている。

 

 へびつかい座銀河団は数千もの銀河や温かいガス、ダークマターが重力によって集合した銀河団であり、地球から3億9000万年離れた場所に位置する。銀河団中心には超巨大ブラックホールが存在する。一般的に超巨大ブラックホールは、周りのガスを取り込んで巨大なジェットを噴き出し、ジェットに沿って物質やエネルギーが流れ出ていく。

 

 図1には今回観測された、銀河団内で拡散する温かいガスの分布が示されている。ピンクの領域はXMM-ニュートンのX線観測がとらえたもの、青色の領域はインドの巨大メートル波電波望遠鏡(以下GMRT)における波長が長い電波領域によってとらえたもの、白色の領域は2MASSサーベイプロジェクトによる近赤外線が捉えたものである。点在する白い点は銀河団前景にある星や銀河を示している。

 

 X線が捉えたガスの領域は破線で示しているように、電波領域で構成される大きな空洞を縁取っていることがわかる。電波領域でとらえられたガスはブラックホールから出るジェットによって噴出したものであり、このガスが空洞の縁を示していることになる。そして空洞は電波で捉えられているが、この電波はブラックホールの強大なガスの噴出活動によって光速に近い速さまで加速された電子が放出する電波だとしている。ガスの空洞はきりん座の方向26億光年先にあるMS0735.6+7421銀河団で発生したブラックホールによる強大なガスの噴出現象のおよそ5倍のエネルギーが必要であり、かつてない大きなガスの噴出現象であることがわかる。

 

 2016年にはカヴリ素粒子宇宙論研究所のノルベルト・ワーナー氏を中心とする研究チームがチャンドラX線望遠鏡のデータから強大なガスの噴出現象が起きている可能性を示しており、不自然な大きな空洞の縁が存在することも示していた。しかしその場合にはブラックホールに巨大なエネルギーが必要になるとして、その可能性は排除されていた。

 

 また今回観測からわかったブラックホールによる強大なガスの噴出現象は、ブラックホールから出るジェットの電波観測データが得られないことから既に終わっているはずだと研究者の間で指摘されている。

 

 ひとつ疑問点として残るのは、超巨大ブラックホールからみて、大きな空洞が確認される電波領域とは反対方向にある電波領域が2つ確認されたことである。この電波領域は今回確認された大きなガスの空洞よりも低密度であるため、電波の放出強度が早く衰えていった可能性があるとしている。

 

 著者の一人であるオーストラリアの国際電波天文学研究センターのメラニエ・ジョンストン・ホリット氏は「様々な波長による電波観測が今回の研究を正しく理解するために必要である。今回はX線観測と電波観測により大きなガスの空洞を発見し、ブラックホールによる強大なガスの噴出現象を確認したが、さらなる疑問解決に向けては多くのデータが必要になるだろう」とコメントしている。

 

 

図1 ( C ) X-ray: Chandra: NASA/CXC/NRL/S. Giacintucci, et al., XMM-Newton: ESA/XMM-Newton; Radio: NCRA/TIFR/GMRT; Infrared: 2MASS/UMass/IPAC-Caltech/NASA/NSF

ピンクの領域はXMM-ニュートンのX線観測がとらえたガス、青色の領域はインドの巨大メートル波電波望遠鏡における波長の長い電波によってとらえたガス、白色の領域は2MASSサーベイプロジェクトによって近赤外線が捉えたものである。四角で囲った領域に大きなガスの空洞の縁が存在する(破線)。ブラックホールからみて大きなガスの空洞とは反対に位置する場所には2つの電波領域が存在し、謎が残されている。