3月20日

 

 電気通信大学の細川敬祐教授を中心とする国際共同研究グループは5日、高速オーロラ撮像装置によって観測された北極域(北欧、アラスカ)のオーロラ観測データと科学衛星「あらせ」による宇宙空間(ジオスペース)における高エネルギー電子の観測データを解析した結果、宇宙空間で発生するコーラス波動(*注1)の秒以下で起こる変化(宇宙の電磁波の「さえずり」と呼ばれる)に呼応して、地上から観測されたオーロラが秒以下の脈動変動が起きていること(オーロラの「またたき」と呼ばれる)を証明することに成功したと発表した。この研究結果は、様々なヴァリエーションを持つオーロラの形態が、宇宙空間の電磁波の変動によって制御されていることを強く示唆している。また地上からのオーロラ観測によって宇宙空間のコーラス波動の二次元分布を推測することが可能となった。本研究成果を活かすことで、地上からのオーロラ観測によって、人工衛星や人体に影響を及ぼす高エネルギー電子の増減を予測することができるようになり、未来の安全かつ安定した宇宙活動に貢献することが期待できるとしている。

 

 オーロラは、宇宙から飛んできた高エネルギー電子が地上高さ100km付近に存在している酸素や窒素などと衝突して、これらの分子や原子が発光する現象である。オーロラが光っている場所には、地球の近くのジオスペースから、地球の磁気(地磁気)に導かれて高いエネルギーを持った電子が注ぎ込まれている。オーロラは、形が明瞭なディスクリートオーロラと形があいまいなディフューズオーロラに大別される。ディフューズオーロラは、ジオスペースに存在する電波である「コーラス波動」の働き(波動粒子相互作用(*注2))によって、ジオスペースの電子が地球へと注ぎ込まれることで発生していると考えられている。コーラス波動は人間の可聴域の周波数帯に存在する自然電磁波であり、電波を音波に変換すると、鳥のさえずりのように聞こえるため「コーラス(合唱)」と呼ばれている。

 

 ディフューズオーロラを高速オーロラカメラで撮影すると、そのほとんどが、数秒から数十秒の間隔で明るくなったり暗くなったりしていることが知られている。その明滅の様子が、脈を打つ心臓のように見えるため「脈動オーロラ」とも呼ばれている。JAXAによって打ち上げられた科学衛星「あらせ」と地上からの光学観測を組み合わせた最近の研究により、脈動オーロラが脈を打つペース(主脈動)が、コーラス波動が強くなったり弱くなったりするリズムによって決められていることがわかっていた。さらに、脈動オーロラの一種である「フラッシュオーロラ」という瞬間的に発光するオーロラがコーラス波動によって作り出されていることも、科学衛星「あらせ」と地上観測の同時観測データによって明らかにされている。

 

 脈動オーロラの興味深い性質の一つとして、明るさの変化に「階層的周期構造」が存在することが挙げられる(図1左)。数秒から数十秒で明滅する主脈動の明るくなっている時間を高速オーロラカメラでズームインしてみると、さらに短い周期の「またたき」が埋め込まれていることがわかる。このまたたきは「内部変調」と呼ばれ、およそ1秒間に3回のペースで起こることが知られている。ゆったりとした主脈動の明滅をズームインしたときに秒以下の細かい周期性が現れる様子は、脈動オーロラが階層構造を持つことを意味している。本研究グループは、ジオスペースで観測されるコーラス波動が類似する階層的周期構造を持つこと(図1右)に着目したモデル研究を行い、秒以下の「またたき」も含めた脈動オーロラの明るさの変化がコーラス波動の強度変化によって完全に制御されていることを予想していた。しかし、これまでは観測の時間分解能の限界が原因で、この予想を証明することができていなかった。

 

 そこで研究グループは「あらせ」による観測と、北欧・アラスカの6箇所に設置された地上からの高速オーロラカメラによるオーロラ撮像を組み合わせることによって、脈動オーロラの「またたき」とコーラス波動の「さえずり」の間の対応関係を検証することとした。
 まず2017年3月29日の夜、北欧フィンランドにおいて「あらせ」と地上撮像装置が上空の脈動オーロラを捉えた。「あらせ」はジオスペースでコーラス波動の周期的な変化も観測した。しかし予想していた脈動オーロラの「またたき」やコーラス波動の「さえずり」の兆候が見られなかった。ここから、この脈動オーロラは、秒以下のまたたきを持たないものだったことがわかった。この結果からは、コーラス波動に秒以下の変化がない場合は、脈動オーロラにも秒以下のまたたき(内部変調)が存在しないことを示し、脈動オーロラには内部変調を持つものと持たないものが存在することが、コーラス波動の性質によって決められていることを示したのである。
 続いて幸運なことに、上記の観測の翌日の2017年3月30日に、今度はアラスカにおいて、脈動オーロラの姿が観測機器によって捉えられた。観測データを解析した結果、脈動オーロラとコーラス波動のどちらにも、細かい変化が存在していることがわかった。オーロラの方を見ると、秒以下の繰り返し周期で明るさが変わっており、フィンランドの例とは異なり、この日の脈動オーロラは細かい「またたき」を持つものだったことがわかったのである。また、コーラス波動の方にも、1発の波動強度の増大の中に細かいスジ(コーラスエレメント)が埋め込まれていることがわかった。これらの秒以下の変動が1対1に対応していることから、脈動オーロラの内部変調が、コーラスエレメント(*注3)と呼ばれるコーラス波動が内包する微細な構造によって完全にコントロールされていることが示された。このような、衛星と地上の双方で秒以下の変化を分解できる観測を行うことによって、オーロラの内部変調がコーラスエレメントの繰り返し周期によって形づくられていることが、初めて示された。

 

*注1 電子が磁力線に沿って、らせん状に運動(サイクロトロン運動)することによって生じる電磁波。ジオスペースの朝側の領域において高い頻度で発生する。電磁波の強度を音声に変換すると、鳥が「さえずる」ように聞こえるために、“コーラス”波動と呼ばれている。

 

*注2 電磁波動とプラズマ粒子(電子、イオン)が、電界・磁界の変動を介して相互作用すること。この相互作用によって、コーラス波動がジオスペース電子を高いエネルギーに加速したり、磁力線に沿って大気に降下させたりする。

 

*注3 秒以下の繰り返し周期でコーラスが再帰的に発生すること。荷電粒子との非線形相互作用によって波動の振幅が成長することで生起すると考えられている。

 

 

図1( C ) 国立極地研究所

(左)赤線は数秒から数十秒のペースで明滅する脈動オーロラの「主脈動」を表す。主脈動の明るくなっている時間(山の部分)をズームインすると、青線で描いたような1秒間に3回程度明滅する「またたき(内部変調)」が存在することが知られている。(右)赤線は、コーラス波動が集団的に発生する様子(コーラスバースト)を示す。このコーラス波動の時間変化が脈動オーロラの主脈動をコントロールしていることが、近年の科学衛星「あらせ」による観測によって示されている。このコーラスバーストをズームインすると、「コーラスエレメント」と呼ばれるコーラス波動の「さえずり」が見られることが知られている。コーラスエレメントと脈動オーロラの内部変調(またたき)の間に関連があることが予想されていたが、本研究が行われるまでは宇宙と地上での同時観測による実証がなされていなかった。

 

 

 

( C ) 国立極地研究所

(左)コーラス波動に「さえずり」がない場合には、大気へ落ちている電子の量にも秒以下の時間変化がなく、脈動オーロラに「またたき」がない。(右)コーラス波動にエレメントが見られる場合は、大気へ降下する電子の量に秒以下の変動が生じ、それが脈動オーロラの「またたき」を作り出している。本研究では、この2つのケースを比較することで、コーラスの鳴き方(「さえずり」の有無)がオーロラのまたたきを制御していることを示した。