3月28日

 

 近畿大学の井上開輝教授らのチームは27日、アルマ望遠鏡により、おうし座方向で地球から110億光年離れたクウェーサーMG J0414+0534天体(*注1)を観測した結果、この天体を取り巻く銀河の中心にある超巨大ブラックホールから噴き出す超高速のガス流(ジェット)によって、銀河中の星間ガス雲が激しく揺さぶられる様子を、高解像度で撮影することに成功したと発表した。110億光年は銀河の進化の初期段階を示すが、この時期においてもジェットが銀河内のガスに大きな影響を与えていることが示されたことは、銀河の進化の過程を解明するための重要な一歩だとしている。

 

 ほとんどの銀河の中心には、巨大ブラックホールが存在している。巨大ブラックホールのなかには、その周囲の物質が降り積もってできた円盤から強い光が放射されるもの(これをクウェーサーという)や、吸引した物質の一部を細く絞られた超高速のガス流(ジェット)として噴出しているものがある。ジェットはその周囲に存在する銀河内のガス(星間ガス)と衝突し、星の材料となる大量のガスを押し出すことにより星形成を抑制するなど、銀河の進化に大きな影響を与えると考えられている。しかしガス流出を引き起こす原因がジェットなのか、それともブラックホールを取り巻く円盤から放たれる強い光なのかは未だにわかっていない。

 

 井上氏らの研究チームは、銀河進化初期にどのようにジェットが星間ガス雲に影響を与えていたのかを探るため、地球から110億光年の距離にあるクウェーサーMG J0414+0534をアルマ望遠鏡で観測した。このMG J0414+0534は、「重力レンズ効果」を受けている天体としても知られている。重力レンズ効果とは強い重力源のそばを光が通過すると、光が重力によって曲げられる現象である。今回の場合ではMG J0414+0534と地球との間に存在する別の銀河の重力がレンズの役割を果たし、MG J0414+0534が放つ光の経路が大きく曲げられるのである。今回の観測によって、研究チームは4つの像を高解像度で撮影することに成功した(図1)。さらに重力レンズの効果を精密に調べ、4つの像を用いて拡大される前の本来の天体の姿を再現した(図2)。アルマ望遠鏡が今回達成した解像度は0.04秒角程度(*注2)であるが、重力レンズによる拡大効果を合わせると、 達成された解像度は約0.007秒角、すなわち視力9000に相当する。図2を見ると、クウェーサーの中心部に非常に明るい電波源があり、その左右に一酸化炭素分子ガスが分布していることがわかる。また一酸化炭素分子が放つ電波を詳しく調べると、ジェットに沿ってガスが秒速600kmにも達する速さで激しく運動していることが明らかになった。これは、超巨大ブラックホールが放つジェットが周囲にある星間ガス雲と衝突し、そのガス雲が激しく揺さぶられていることを示している。

 

 さらに注目すべきは、ジェットと星間ガス雲が衝突している領域の大きさが典型的な銀河の大きさに比べて大変小さいことであるとしている。これは、ジェットが吹き出し始めて間もないことを示している。MG J0414+0534の観測的な特徴は、理論シミュレーションによって予言されていた、非常に若いジェットと相互作用する星間ガス雲の性質と良く一致していることも確認された。

 

 井上氏は「今回の観測により、私たちは超巨大ブラックホールの活動が銀河に明らかに影響を与えているという確かな証拠をつかむことができました。この成果は、銀河の進化初期において超巨大ブラックホールが放つジェットがどのように星間ガス雲に影響を及ぼし、どのように銀河の巨大ガス流出が引き起こされるのかを明らかにする手掛かりになるでしょう。」とコメントしている。

 

*注1 MG J0414+0534は、地球からみるとおうし座の方向に位置している。この天体の赤方偏移(光の波長の伸び率)はz=2.639である。これをもとにプランク衛星の観測から得られたパラメータを用いてMG J0414+0534が光を発したときの宇宙年齢を計算し、パラメータの不定性も考慮してこの記事では距離を110億光年としている。

 

*注2 望遠鏡の解像度は角度の単位で表現されており、1秒角は1度の3600分の1として定義される。60秒角離れた2点を識別できる解像度が視力1.0に相当する。

 

 

図1 重力レンズ効果を受けたMG J0414+0534天体の疑似カラー画像。

( C ) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), K. T. Inoue at al.

オレンジ色で塵と高温電離ガスの分布を、緑色で一酸化炭素分子の分布を示している。重力レンズ効果のため、像が4つ見えている。

 

 

図2 ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), K. T. Inoue et al.

アルマ望遠鏡で観測したデータをもとに、クウェーサーMG J0414+0534が重力レンズ効果を受ける前の本来の姿を再構成した疑似カラー画像。オレンジ色が塵と高温電離ガスの分布、緑色が一酸化炭素分子ガスの分布を表している。一酸化炭素分子が、銀河中心核の両側にジェットに沿った分布をしていることがわかる。

 

 

( C ) 近畿大学

アルマ望遠鏡観測成果をもとにして描いた、クウェーサーMG J0414+0534の想像図。銀河の中心にある超巨大ブラックホールから、強力なジェットが吹き出し、周囲の星間ガスと衝突しているようすを表現している。