5月16日

 

 

 名古屋大学大学院の福井康雄教授を中心とする研究グループは、大質量星・星団の形成機構として「星間雲同士の衝突」によるガス圧縮が本質的な役割を果たしていることを明らかにした。このコラムは、研究グループが2019年9月11日(2020年1月27日に内容を改定)に国際銀河天文学会に提出した、「アンテナ銀河NGC4038/NGC4039における星間雲衝突による大質量星の形成 (arXiv:1909.05240)」という論文を基にしている。

 

 大質量星は太陽の8倍以上の質量を持ち、その膨大なエネルギーによって銀河と宇宙の進化に多大な影響を与える。大質量星は重力収縮をしていき、最後に超新星爆発を起こすことによって宇宙に重元素を供給し、生命誕生の元を作ると考えられている。大質量星の誕生を理解することは、天体物理学の最も重要な基本課題の1つである。これまでは大質量星の形成機構は未解明であった。

 

 これまでの大質量星形成の最もシンプルなシナリオとして、「小質量星の衝突合体によって大質量星が形成される」というものがある。しかし衝突合体に必要な星密度は観測される星団の星密度よりもはるかに高いことがわかり、このシナリオの仮説は棄却された。現時点においてこの仮説以外の大質量星形成シナリオとして様々な仮説が立てられている。

 

 研究チームは大質量星形成シナリオを解明するべく、「星間雲衝突による大質量星形成」というシナリオに着目した。対象の天体としてはアンテナ銀河NGC4038/4039(写真1)を選んだ。アンテナ銀河は相互作用銀河であり、最も星間雲衝突が期待できるものと考えたためである。相互作用銀河において星形成が衝突によって誘発される可能性はしばしば議論されてきたが、十分な角度分解能の観測例は乏しく、具体的にガスがどのようにふるまい、星形成に至るのかは漠然としていた。しかし高感度のアルマ望遠鏡の観測によってガスのふるまいを精度良くとらえることが可能になった。

 

 アンテナ銀河NGC4038/4039は2個の大銀河が100km/s程度の速度差で衝突しており、相互作用銀河の典型として知られている。また10の5乗から6乗太陽質量の若い大質量星団の存在が知られており、分子ガスも大量に存在する。星団は数千もの数があることがわかっている。

 

 研究チームはアルマ望遠鏡による観測データを用いてNGC4038/4039銀河において2銀河が衝突しているとみられる領域(overlap rigion)を解析した結果、3つの速度成分があり、それぞれが衝突相互作用で期待されるブリッジ(2個の分子雲速度の中間速度として検出される)でつながっている星団を発見することに成功した(図1)。3つの速度成分は、別々の分子雲の速度成分とそれぞれの分子雲をつなぐブリッジの速度成分で構成される。さらに2つの大質量星団候補”Super Star Cluster (SSC) B1”と”ファイアクラッカー(爆竹の意味)”に注目して解析を行った。SSC B1はアンテナ銀河の中で最も若い大質量星団の候補である。またファイアクラッカーはアルマ望遠鏡によってコンパクトで強い分子輝線が観測されており、「球状星団の前身」ではないか示唆されている。なおここでは、球状星団が恐竜に例えて「生まれる直前の恐竜の卵」という意味で「爆竹」という名前がつけられている。ただしファイアクラッカーの質量は太陽質量の10の5乗以下と見積もられており、球状星団ほどの質量はない。SSC B1とファイアクラッカーを解析した結果、50~100km/s以上という高速の分子雲衝突が起きていることが見いだされた。これらの星団候補が衝突によって形成された可能性が初めて明らかにされたのである。

 

 福井教授は「星間雲衝突は今のところ唯一の有望な大質量星・星団形成機構であり、今後スターバーストや初期宇宙などでの大質量星形成機構解明への手掛かりになる可能性がある」とコメントしている。

 

 

写真1 ( C ) NASA/ハッブル宇宙望遠鏡

アンテナ銀河NGC4038/4039の写真。アンテナ銀河は、地球から約6,300光年離れた南天の星座である「からす座」の方向にある、2つの渦巻き状の銀河が衝突してできたものである。今回の研究では2つの銀河が衝突しているとみられる領域(overlap region)のアルマ望遠鏡による観測データ(CO(一酸化炭素)輝線を用いたもの)を解析することとした。

 

 

図1 ( C ) 名古屋大学/Kisetsu Tsuge,Yasuo Fukui et al.

左は銀河衝突領域のSGMC1と呼ばれる部分の位置速度分布図。黄色の部分は2つの分子雲をつなぐブリッジと呼ばれており、中間速度成分(1460~1505km/s)が検出される領域。緑色の部分は1505~1550km/sであり、青色の部分は1350~1460km/sの速度成分が検出される。黒の十字部分はSSCの存在位置を示し、赤色の十字は星団が形成・進化段階にあるSSCを示している。右の図はSSC DにおけるCO輝線分布。