5月30日

 

 

 ドイツ・マックスプランク天文学研究所のマーセル・ニールマン氏を中心とする研究グループは21日、かに座方向123.9億光年の距離にある円盤銀河をアルマ望遠鏡によって観測した結果、円盤銀河が従来の理論モデルに反して秩序だった回転を行っていることを見出したと発表した。この回転円盤銀河はヴォルフェ円盤銀河と名付けられ、宇宙誕生後15億年経過したときに作られた。従来までは宇宙誕生後60億年経過しなければ秩序だった回転円盤銀河は生まれないとされていたことから、今回の宇宙初期における回転円盤銀河の発見は、従来の理論モデルに再考を求めることになる。

 

 ビッグバンで宇宙が始まって以来138億年の歴史の中で、私たちが住む天の川銀河のようなほとんどの銀河は長い時間をかけて成長し、現在のような巨大な姿になったと考えられている。しかし今回観測したヴォルフェ円盤銀河は、宇宙初期において既に秩序だった回転をする回転円盤銀河が完成したという、これまでの常識とは異なる性質を見せることとなった。今回アルマ望遠鏡で観測した銀河は「DLA0817g」と名付けられているが、研究チームは天文学者である故アーサー・ヴォルフェの名を取って「ヴォルフェ円盤」と呼ぶこととした。

 

 ヴォルフェ円盤銀河は、これまで発見された中で最も遠くにある回転円盤銀河であり、最初にアルマ望遠鏡で発見されたのは、2017年のことである。ニールマン氏らのチームは、より遠方にある「クエーサー」の光を詳細に調べているときに、この天体の存在に気づいた。クエーサーからの光の一部が、ヴォルフェ円盤を取り囲む水素ガスに吸収されていたのである。なお吸収される光を使って銀河を探す方法では、自ら強い光を放つ銀河でなくとも、より暗い「普通の銀河」まで発見できる可能性が高まるとされている。

 

 今回研究チームはヴォルフェ円盤銀河の詳細な姿をとらえるべく、アルマ望遠鏡によって観測を行った結果、ヴォルフェ円盤銀河が秒速272キロメートルで回転していることを明らかにした。この回転速度は、天の川銀河の回転速度とほぼ同じある。またアメリカにある電波干渉計カール・ジャンスキーVLAとハッブル宇宙望遠鏡を使って、ヴォルフェ円盤をさらに観測した。アルマ望遠鏡ではこの銀河の動きとともにそこに含まれる原子ガスと塵の質量を測定できる(図1)一方、カール・ジャンスキーVLAでは星の材料となる分子ガスの量を測定できる1(図2)。また、ハッブル宇宙望遠鏡が観測した紫外線では、大質量星を調べることができるのである。観測の結果、ヴォルフェ円盤の星形成率が、天の川銀河よりも少なくとも10倍高い値であることがわかった。このことは初期宇宙で最も生産的な円盤銀河のひとつであることを示している。

 

 ニールマン氏は「これまでの観測でも、ガスを豊富に含む若い円盤銀河が回転していることを示す手がかりは得られていましたが、アルマ望遠鏡の観測によって、宇宙誕生後15億年に満たない時代の銀河が確かに回転しているというはっきりとした証拠を得ることができました。」とコメントしている。またヴォルフェ円盤が確かに回転しているという観測結果は、従来の研究に対して異議を唱えるものであり、銀河形成の理論モデルの再考が求められることとなった。これまでの銀河形成を論じたほとんどの理論モデルでは、小さな銀河が時間をかけて合体して大きな銀河になるとされていた。宇宙誕生後15億年に満たない時代の銀河は、多くの小さな銀河や高温ガスのかたまりを飲み込みながら成長する途上にあり、銀河衝突や高温ガスの流入によって作られる激しいガスの動きが落ち着き、秩序だった動きをする円盤銀河が作られるのは、ビッグバンから60億年ほど経過したころだと考えられていたのである。ニールマン氏は「初期宇宙に発見される銀河のほとんどは激しい銀河衝突を引き起こしている途中にあるため、その姿は無秩序なものになっています。ですから、現在の宇宙に存在する銀河のような、低温のガスが秩序だって回転しているような円盤を初期宇宙に作るのは難しいのです。」とコメントしている。

 

 研究チームの一人であるカリフォルニア大学サンタクルーズ校のゼビエル・プロチャスカ氏は、「私たちは、ヴォルフェ円盤が、冷たいガスが安定的に供給されることで成長してきたのだと考えています。しかし、秩序だった回転を保ちながらどのようにしてこれほどの質量を持つ円盤に成長してきたのかは、謎のままです。」とコメントしている。

 

 

図1 ( C ) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), M. Neeleman; NRAO/AUI/NSF, S. Dagnello

アルマ望遠鏡が観測した回転円盤銀河「ヴォルフェ円盤」。塵の分布を黄色、炭素イオンガスの分布をマゼンタで表現している。宇宙年齢が現在の1割ほどだった時代に存在した巨大な銀河である。

 

 

図2 ( C ) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), M. Neeleman; NRAO/AUI/NSF, S. Dagnello; NASA/ESA Hubble

アルマ望遠鏡、VLA、ハッブル宇宙望遠鏡で撮影したヴォルフェ円盤。右画像では、アルマ望遠鏡のデータを赤、ハッブル宇宙望遠鏡のデータを青で示している。また左画像では、VLAのデータを緑、ハッブル宇宙望遠鏡のデータを青で示している。アルマ望遠鏡は原子ガスと塵、VLAは分子ガス、ハッブル宇宙望遠鏡は星の分布を明らかにした。

 

 

図3 ( C ) NRAO/AUI/NSF, S. Dagnello

初期宇宙に見つかった回転円盤銀河「ヴォルフェ円盤」の想像図。