2017年1月28日

 

 国立天文台は1月24日、超小型深宇宙探査機プロキオンに搭載されたライカ望遠鏡を用いて2015年9月にチュリュモフ・ゲラシメンコ彗星の水素ガスを観測し、その観測結果から彗星核からの水分子放出率の絶対量を決定したことを発表した。

 

 この研究は国立天文台、ミシガン大学、京都産業大学、立教大学および東京大学の研究者で構成された研究グループにより行われたもの。

 

 チュリュモフ・ゲラシメンコ彗星(正式名称:67P/Churyumov-Gerasimenko)は、欧州宇宙機関が実施した彗星探査計画(ロゼッタ計画)のターゲット天体。ロゼッタ計画では、2015年の回帰(太陽への接近)において近日点(太陽と最も近づく場所)を含む2年以上にわたり、探査機によって彗星核近傍から精密な観測が実施された。ロゼッタ探査機でも水分子の精密な観測が行われたが、彗星コマ中に位置したロゼッタ探査機によるその場観測では、彗星コマの特定の領域しか観測できなかった。

 

 プロキオン探査機は、東京大学などが開発した、重さ約65キログラムという深宇宙探査機としては世界最小サイズの探査機である。そして今回彗星を観測したライカ望遠鏡は、アポロ16号以来42年ぶりにジオコロナ(地球の周りを広く覆っている水素ガスの層)の外側からジオコロナ全体の撮影を行うことを目的として立教大学を中心に開発された、水素ガスを観測できる望遠鏡のことである。

 

 彗星コマ中の水素ガスの大部分は、彗星核から放出した水分子が太陽紫外線で壊されること(光解離)で生成される。そのため水素ガスを観測すると、彗星核からの水分子の放出量の推定が可能となる。水分子は彗星氷として最も豊富に含まれる分子であるため、彗星の活動度だけでなく、太陽系初期に形成され彗星に取り込まれた分子の形成過程に関する理解においても重要な分子。今回のジオコロナの外側からコマ全体の水素ガスを観測し、彗星活動が最も激しい近日点付近での水分子の生成率(彗星核からの単位時間当たりの放出量)の絶対量を決定したとのこと。この結果から彗星のコマ・核モデルが検証され、ロゼッタ探査機で決定された成分比などを元に2015年回帰全体における彗星の活動度を非常に正確に推定することができたとしている。

 

 今回の成果は現在各所で計画が進んでいる超小型深宇宙探査機による世界初の理学的な成果であり、ロゼッタ計画のように大型計画で実施できない重要な部分を低コストかつ短期間で開発された計画によってサポートするという理想的なサイエンスの形であったことから、今後の小型探査機での大型計画のサポート観測におけるモデルケースになるとしている。

 

* 彗星は、直径数kmの核と呼ばれる氷と岩のかたまりである。そのため「汚れた雪玉」とも呼ばれる。これが太陽に近づくと熱せられ、ガスや塵(ちり)が放出されて、核の周囲に「コマ」と呼ばれる大気をつくる。また、放出されたガスや塵は、太陽風に流されて「尾」を作る。尾には2つの種類があり、1つは太陽と反対の方向にまっすぐ伸びる尾で、青く見える。これは放出されたガスが電離してイオンになったものからできているもので「イオンテイル」と呼ぶ。もう1つは、幅の広い曲がった尾で、太陽の光を反射して白っぽく見える。これは塵でできているもので「ダストテイル」と呼ぶ。尾の長さは、長いものでは数億kmにも達する。

 

 

 

(C)国立天文台