2017年2月13日

 

 理化学研究所は2月8日、坂井星・惑星形成研究室の坂井南美准主任研究員と、東京大学大学院理学系研究科の大屋瑶子大学院生、山本智教授らの国際共同研究チームが、アルマ望遠鏡を用いて原始惑星系円盤を観測し、エンベロープガスが円盤に降着する際に滞留・衝突し、衝撃波が発生することで、エンベロープガスが自ら角運動量(回転の勢いを表す量)の一部を円盤垂直方向に放出していることを見いだしたことを発表した。

 

 国際共同研究チームはアルマ望遠鏡を用いておうし座の太陽型原始星を観測し、原始星の周りで起こる原始惑星系円盤形成の様子を調査。その結果、エンベロープガスに含まれる炭素鎖分子の一種「CCH分子」の分布により、円盤の端(遠心力バリア)で原始星方向へ落下するエンベロープガスが滞留・衝突し、円盤と垂直方向に膨れ出していることを発見した。これは、垂直方向へ流れ出したエンベロープガスが衝突による衝撃波で回転のエネルギーを消費するとともに、角運動量を放出する役割を担っていると考えられている。

 

 星と惑星系は、星と星との間に漂うガス(主に水素分子)や塵からなる分子雲が自己重力で収縮することで誕生する。しかし生まれたばかりの原始星の周りを回転しながら原始星方向へ落下するエンベロープガスが原始星からある半径に到達すると、原始星の重力よりも回転による遠心力が大きくなるため、エンベロープガスの角運動量の一部が外部に放出されなければ、原始惑星系円盤を形成できないとされている。

 

 原始星方向へ落下するエンベロープガスにおいて、原始星からの重力と遠心力が釣り合う場所を「遠心力半径」、ガスが原始星に最大限近づける半径(円盤の端)を「遠心力バリア」と呼ぶ。

 

 角運動量を放出するメカニズムの問題を「惑星系円盤誕生における角運動量問題」と呼び、惑星系円盤形成の研究における最大の謎といわれている。これまで、電磁流体力学計算によるコンピュータシミュレーションなどで理論的に研究されてきたが、磁場の強さやガスの温度・密度構造、電離度などは、さまざまな仮定に基づくものであった。そのため実際に星が誕生する現場を詳しく観測することが求められていた。

 

 本研究により、これまでほとんど観測されなかった円盤の“垂直方向の構造”に着目しガスが自ら角運動量の一部を円盤垂直方向に放出し、磁場などの力を借りずに角運動量を放出できると観測的に示したことで角運動量問題解決への糸口を発見。今後、同じような現象が他の円盤形成領域でも確認できれば、角運動量問題の全容解明へつながるとともに、太陽系の惑星形成の理解に大きく寄与することが期待できるとしている。

 

 

(上写真は理化学研究所プレスリリースより)

 

 中心に原始星(白)があり、その周りに原始惑星系円盤(断面で表面がオレンジ色、内部が紫色の部分)が形成されている。赤線のように、外側から落下してきたガス(低温)が遠心力バリア手前で滞留・衝突し、生じた衝撃波によって円盤と垂直方向にガスが膨れ出し、高温になっている。