2017年2月18日

 

 国立天文台は2月15日、ケンブリッジ大学のヘレン・ラッセル氏をはじめとする国際研究チームが、アルマ望遠鏡を用いたほうおう座銀河団(ほうおう座の方向に57億光年の距離)の観測により、ブラックホールから噴き出す高速のガスジェットが、星の誕生を促進させていたことを発見したと発表した。

 

 これまでは高速のガスジェットは星の材料を吹き飛ばして星の誕生をむしろ抑制すると考えられていた。背景には、高温な「泡」が星誕生の形成過程を妨げると考えられていたことが挙げられる。これまでにアメリカ航空宇宙局(NASA)のチャンドラX線宇宙望遠鏡を用いた観測において、高速のガスジェットは銀河の両側に巨大な「泡」を作りだしていることが明らかになっていた。この「泡」は非常に高温で希薄なプラズマガスからなっており、銀河を取り巻いている。この「泡」はあまりに高温であるため、ガスが冷えて収縮するという星の誕生に必須の過程をたどることはできないとされていた。

 

 しかしアルマ望遠鏡による観測では、この「泡」の側面に沿って低温の分子ガスが細長く分布していることが明らかになった。この低温ガスは、活動銀河核の両側に8万2000光年もの長さにわたって存在しており、その総質量は太陽100億個分にも相当する。この低温ガスは、「泡」によって銀河中心部から持ち上げられたものか、あるいは「泡」の表面で作られたものと考えられている

 

 なお、ほうおう座銀河団の中心にある超巨大ブラックホールが周囲からガスを吸い込んでいる一方、その一部を高速の双極ジェットとして銀河間空間に噴き出しているが、このように非常に活発な活動を示す天体は、「活動銀河核」と呼ばれている。

 

 ラッセル氏は「超巨大ブラックホールによって作られた泡状構造と銀河の成長に欠かせない星の材料の関係が、アルマ望遠鏡による観測で初めて直接明らかになりました」とのコメントを発表。「ブラックホールが今後の星形成活動をどのように制御するのか、またブラックホールの活動の源となる物質を銀河がどのように獲得するのかという2点に、今回の研究は新しい視点を提供するものになりました」と語っている。

 

 

Credit: B. Saxton (NRAO/AUI/NSF)

 *上図はほうおう座銀河団の中心にある銀河の想像図。銀河の中心にある超巨大ブラックホールから上下に強力なジェットが噴き出しており、それが高温ガスの「泡」を作りだしている(青色)。アルマ望遠鏡では、この泡状構造のふちに沿って低温ガスが分布していることを明らかにした(オレンジ)。この低温ガスはやがて銀河に落下し、星の材料になるとともに超巨大ブラックホールのエネルギー源となる。