2017年3月4日

 

 台湾中央研究院天文及天文物理研究所(ASIAA)のヒョスン・キム氏をはじめとする国際研究チームは3月3日、アルマ望遠鏡による観測により、年老いた星ペガスス座LL星の周囲にガスの渦巻き模様をはっきりと描き出すことに成功したことを発表した。さらにこの星は連星をなしており、渦巻き模様を解析することで、実際には直接観測することのできない連星系(2個以上の星が近い距離にあり、重力的な影響を及ぼしあってお互いに公転し合っている星のこと)の軌道運動を導き出すことができたとしている。

 

 研究チームは、アルマ望遠鏡を使い、ペガスス座LL星から継続的に噴出したガスが放つ電波を捉えることに成功。この観測結果と自ら開発したコンピュータシミュレーションによる実験結果を比較し、観測された渦巻き模様を作りだすためには連星の軌道が非常に細長い楕円である必要があると結論付けた。

 

 今回観測対象となったペガスス座LL星は、直径が太陽の200倍以上に膨らんで盛んにガスを放出している(*1)赤色巨星であり、惑星状星雲になる一歩手前の段階にある。およそ10年前にハッブル宇宙望遠鏡で撮影され、完璧な渦巻き模様を持つ星として天文学者の注目を集めていた。しかしハッブル宇宙望遠鏡が撮影したペガスス座LL星の周囲の渦巻き模様は、ガスと一緒に星から放出された塵が、星からの光を散乱することで見えていたものである。このため、渦巻き模様がどのように実際に動いているかを直接測定することはできていなかった。その後アルマ望遠鏡により、星の周囲を取り巻くガスに含まれる一酸化炭素やHC3N分子が放つ特定の周波数の電波を捉えることができるようになり、ドップラー効果による周波数のずれからガスの運動を測定することができるようになった。これにより、ハッブル宇宙望遠鏡では測定することができなかった、巨星から放出されるガスの運動が伴星の運動に伴って変化していく様子を明らかにすることができたとしている。

 

 共同研究者であるマーク・モリス氏(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)は、「極めて整った形状を持つこの星によって、連星系の軌道進化を理解する新しいドアが開かれたといえます。渦巻きパターンの各周回が、異なる時代の記憶をとどめているといってもよいからです。」とコメントしている。

 

 共同研究者のシェンヤン・リュウ氏(ASIAA)は、「渦巻きの間隔を測定することで、ペガスス座LL星を含む連星系の周期は約800年であることが推定できました。これは何人もの人が一生をかけても継続観測できないような長い周期ですので、渦巻き模様を逆にたどることでこの周期を読み解いていくというのは賢いやり方といえるでしょう。」と語っている。

 

 キム氏は「この印象的な渦巻き模様は、自然からのメッセージといってもいいでしょう。このメッセージを解読し年老いた中心星の姿を明らかにすることに、いま天文学者は挑んでいるのです。」と、今回の研究の意義をまとめている。

 

*1・・・赤色巨星は太陽の8倍程度よりも質量の小さい星であり、一生の最期に大きく膨らみ、自らを作っているガスを宇宙空間に放出する。さらに進化が進むと中心の星の芯がむき出しになり、そこから放たれた強烈な紫外線が周囲のガスを照らしだすことによって「惑星状星雲」として見えるようになる。私たちを照らす太陽も、数十億年後には赤色巨星になると考えられている。

 

 

 

(C)国立天文台

*上写真はアルマ望遠鏡により撮影されたペガスス座LL星の周囲に広がる渦巻状のガスである。