3月18日

 

 国立天文台は3月17日、東邦大学の北山哲教授をはじめとする研究チームが、アルマ望遠鏡により地球から48億光年の距離にある銀河団を取り囲む高温ガスを描き出すことに成功したと発表した。これは、*1「スニヤエフ・ゼルドビッチ効果」と呼ばれる現象を捉えたものであり、アルマ望遠鏡の高い観測性能により、この効果の観測としてはこれまでで最も高い解像度を得ることに成功。この研究成果により、この銀河団が激しい衝突を起こしていることの確証が得られたと共に、銀河団を取り巻くガスの分布や温度を詳しく観測する新たな手法が確立されたとしている。また高温ガスは、多数の銀河を重力で引き寄せてまとめる役割を果たしている「暗黒物質」の分布を調べる手がかりにもなる。

 

 これまでのX線観測から、銀河団は、大量の高温ガスをまとっていることがわかっていたが、2000年に国立天文台野辺山宇宙電波観測所の45m電波望遠鏡で行われた観測では、高温ガスの分布にムラが発見され、従来のX線観測に基づいて想定されていた滑らかな分布とは異なることが示唆された。より詳しいガスの分布を知るためにはより高い解像度での観測が必要であり、アルマ望遠鏡計画の中で日本が担当した「モリタアレイ」と呼ばれる、アンテナの口径を小さくし、アンテナを密集して設置することによって実効的に広い視野を実現することができる観測機の開発につながった。そのモリタアレイは今回の研究に用いられたアルマ望遠鏡の一部となっている。

 

 研究チームを率いる北山氏は「スニヤエフ・ゼルドビッチ効果の存在が初めて提唱されてから50年近く経ちますが、非常に微弱な現象であるため、高解像度の観測を実現するのはまさに至難の業でした。今回、アルマ望遠鏡によってその壁がついに破られ、宇宙の進化を探るための新たな道が切り拓かれたことを大変嬉しく思います。」とコメントしている。

 

*1 スニヤエフ・ゼルドビッチ効果
 地球には、ビッグバンの名残とされる電波「宇宙マイクロ波背景放射(Cosmic Microwave Background: CMB)」があらゆる方向からやってきている。銀河団を取り巻く高温ガスをCMBの電波が通り抜けるとき、高温ガスに含まれる電子と電波が衝突し、電子の持っていたエネルギーの一部が電波に渡される。その結果、高温ガスを通り抜けた電波はもともとのCMBの電波よりも高いエネルギーに偏ることになる。これを地球から観測すると、高温ガスのある方向では、他の方向に比べてCMBの電波が弱くなる現象が起きる。これを、提唱者の名前を取ってスニヤエフ・ゼルドビッチ効果と呼ぶ。

 

 

(C)ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Kitayama et al., NASA/ESA Hubble Space Telescope

 アルマ望遠鏡とハッブル宇宙望遠鏡で観測した銀河団RX J1347.5-1145。アルマ望遠鏡によるスニヤエフ・ゼルドビッチ効果の分布を青色で示している。銀河団の中心に近いほどスニヤエフ・ゼルドビッチ効果が大きく、電波が弱くなっていることがわかる。