4月2日

 

 海洋研究開発機構(JAMSTEC)、立命館大学古気候学研究センターの中川毅センター長・教授らの国際共同研究グループは3月31日、福井県の水月湖から採取されたおよそ1万2000年前の堆積物を分析した結果、大西洋周辺地域では温暖化が進行していた時代に、日本を含む東アジアでは寒冷化が起こっていたことが判明したと発表した。

 

 これは堆積物の分析を行い、当時の気温、降水量、および風の吹きかたの復元を行った結果をヨーロッパの湖沼および北大西洋の海底の堆積物の分析結果と比較したことから判明。福井県の水月湖から得られる一年に一枚の薄い地層”(*1)年縞堆積物”の特徴であるきわめて高精度な年代モデルを実際の比較研究に応用することで、世界の気候変動が地域によって多様性を持っていることを実証的に明示した初めての事例である。またこのような実証的なデータは、気候の将来予測の精度を向上させるためにきわめて重要であり、古気候研究の将来の方向性を決める役割を果たしたとしている。

 

 水月湖の年縞堆積物は世界で最も正確に年代が分かっている堆積物資料とされており、日本、ドイツ、イギリス及びオーストラリアの研究者からなる研究グループは、2006年から年縞堆積物の分析を行ってきた。特に1万2800年前から1万1600年前までの時代(ヤンガー・ドリアス期)に着目。この時期は北半球の広い範囲で気温の低下が起こっていたことが知られている。さらにこの時期は大規模な気候変動としてはもっとも最近のものであるため、年代推定の誤差が少ない上に、世界各地で研究がおこなわれており、地域による気候変動の特色を比較するのに適している。

 

 国際共同研究グループは、水月湖の堆積物に含まれる花粉化石、淡水性のプランクトンの化石及び鉱物の分析を行うことで、この時代の日本で気温、降水量及び風の吹きかたがどのように変化したかを復元することに成功。その結果ヤンガー・ドリアス期は前半と後半の二つに区切ることができ、特に後半は特徴的に寒冷であったと同時に高い頻度で強風が吹いていたことが判明。ヤンガー・ドリアス期が前半と後半で異なる特徴を持つことは、ヨーロッパや北大西洋の記録からも報告されていたが、ヨーロッパや北大西洋では寒冷で強風が吹き荒れていたのはヤンガー・ドリアス期の前半であり、後半はむしろ温暖で湿潤な環境に移行していたとされている。よってヨーロッパの地域と日本では気候変動の順番が入れ替わっていたことになる。このようなコントラストをもたらした要因としては、降雪の地理的なパターンの変化が考えられている。

 

*1 年稿:一年に一枚ずつ堆積する薄い地層のこと。縞の枚数を数えることで精密な年代決定ができる。また、数年もしくは数十年程度の、地質学的にはきわめて短い時間スケールで起こる変動を検出するのに適している。

 

 

(C)JAMSTEC

顕微鏡下での炭酸鉄。湖で採取された鉱物は、時間の経過と共に湖がどのように変化したかの情報を提供する。