5月20日

 

 国立天文台は19日、アルマ望遠鏡により1等星フォーマルハウトを取り巻く環を2012年以来再び撮影し、環の全体像を描き出すことに成功したと発表した。2012年観測時には環は半分しか観測されていなかった。また環の中でも、星から遠い位置が明るく輝く現象も初めて観測したとしている。

 

 フォーマルハウトは、地球から約25光年の場所に位置する星。フォーマルハウトの年齢は4億歳ほどと考えられており、太陽系のおよそ1/10の年齢しかない若い星である。またアルマ望遠鏡による新しい観測から、環の幅は約20億km、フォーマルハウトからの距離は約200億kmであることがわかっている。また国際研究チームによると、今回の画像解析結果から、環が惑星の重力の影響下で作られたことが確認できたとしている。

 

 アルマ望遠鏡はこれまでに、数百万歳~1千万歳という非常に若い星のまわりの円盤を数多く観測しているが、フォーマルハウトはそれよりもやや進化が進んでおり、太陽と同じように水素の核融合反応で輝く一人前の星である。また今回の観測結果は、その化学的な特徴が太陽系の彗星と似ていることも示唆。こうした大人の星を取り巻く塵の環は、デブリ円盤(残骸円盤)と呼ばれる。デブリ円盤は、これから惑星ができていく現場ではなく、ある程度出来上がった惑星系の中であとからばらまかれた塵でできていると考えられている。よってフォーマルハウトの環は、惑星系と同じように外縁部で彗星や小天体が互いに衝突した名残の塵であると推定される。こうした「残骸」の塵が星からの光を吸収し、わずかに温まることで、アルマ望遠鏡が観測する微弱なミリ波を放出している。

 

 また今回初めて観測された重要な現象が一つある。それは環の中でも星から遠い位置が明るく輝く現象である。これは、マサチューセッツ工科大学のマーガレット・パン氏が2016年に論文で予測していたもの。天体の周囲を楕円軌道で回る物体すべてに当てはまることであるが、星から最も遠い場所では物体がゆっくりと動き公転速度が落ちるため、塵が渋滞し、密度が高くなることで強い電波を出すものであると考えられている。

 

 今回の観測結果を元にフォーマルハウトの環に関する論文が2つ発表された。そのうちのひとつの論文の筆頭著者であるハーバード・スミソニアン天体物理学センターのメレディス・マグレガー氏は「アルマ望遠鏡によって、環のようすをおどろくほど鮮明に写し出すことができました。くっきりとした環の形がより良く見えたことで、環に影響を及ぼす惑星系について多くのことを知ることができるのです。」とコメント。

 

 一方で分子ガスが放つ電波に注目すると、一酸化炭素ガスが塵の環と同じ場所に分布していることが判明。今回発表されたもう一つの論文の筆頭著者であるケンブリッジ大学のルカ・マトラ氏は、「新しいデータによって、フォーマルハウトの一酸化炭素と二酸化炭素を合わせたガスの相対存在量が、太陽系の彗星における値と似ていることがわかりました。これは、フォーマルハウト惑星系の外縁部と太陽系で、彗星の形成条件が似ていた可能性を示すものです。」とコメントしている。研究チームは、このガスの起源について、継続的に起きたたくさんの彗星の衝突によって供給された、あるいはヘール・ボップ彗星の何百倍も大きな巨大彗星の衝突が1度だけ起きたことによって供給された、という2つの可能性を挙げている。

 

 また一連の研究を率いたカリフォルニア大学バークレー校のポール・カラス氏は「いつの日か、環を形作るちりの軌道に影響を与える惑星そのものを見つけたいと思っています。」と今後の展望についてコメントしている。

 

 

(C) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO); M. MacGregor

アルマ望遠鏡が新たに撮影した、フォーマルハウトを取り巻く環。