5月27日


 国立極地研究所は19日、福田陽子氏(国立極地研究所特別共同利用研究員)と片岡龍峰准教授(国立極地研究所)を中心とする、東京大学、名古屋大学、京都大学等の共同研究グループが、3年間にわたるオーロラの連続高速撮像によってこれまで観測された中で最速のオーロラの明滅現象を発見し、発生メカニズムを明らかにしたことを発表した。撮影場所はアラスカで、2014年以降冬季の約4ヶ月間に渡って連続観測を行っていた。

 

 オーロラは通常ゆっくりとゆらめく光のカーテンのように見えるが、“ブレイクアップ”と呼ばれるオーロラが急激に明るく光りだす爆発現象が起こると、カーテンの一部で明るさや動きが非常に激しく変化する“フリッカリング”という現象が見られる。フリッカリングを起こすオーロラはフリッカリングオーロラと呼ばれ、明るさが最も速く変化するもので、酸素イオンのサイクロトロン振動数(*注1)に相当する1/10秒前後の周期で明滅していることが報告されていた。

 

 共同研究グループはさらに高速の明滅を検出するため、毎秒160フレームの撮影が可能な高速撮像カメラを使用して連続観測を実施。その結果、酸素イオンによる1/10秒周期の明滅と同時に、1/50秒周期の明滅や、1/80秒周期という高速の明滅を発見した。これは、フリッカリングオーロラが酸素イオンだけではなく、水素イオンの影響を受けた電磁イオンサイクロトロン波(*注2)によっても引き起こされている証拠になるとしている。そしてこの結果は、オーロラの発生要因である電子とプラズマ波動の相互作用についての理解に貢献することが期待される。

 またプラズマ波動によって電子やイオンが再び影響を受けるというような複雑なエネルギーのやりとりが起きていることが推定されるとしている。地球のように磁場を持つ天体は宇宙にあふれているが、そのような天体では加速粒子によるプラズマ波動の励起や、プラズマ波動と粒子の相互作用が普遍的に起こっていると考えられており、その詳細を観察できるのは、現在のところ地球のオーロラだけである。よって宇宙空間でのプラズマの基本的な在り方を理解するためには、今後プラズマ波動と粒子の相互作用は地球のオーロラのように地球物理学の面から考えていく必要があるとしている。

 

 

 

(C)国立極地研究所

図1: オーロラの加速領域とフリッカリングオーロラの形成メカニズムの概念図

 

 フリッカリングオーロラは、カーテン状オーロラの一部で明るさや動きが1/10秒前後の速さで周期的に変化するオーロラであり、これまでの研究から、高さ数千kmの「オーロラの加速領域」(図1左、*注3)にその明滅の原因があると考えられていた。オーロラの加速領域では、加速された電子やイオンにより様々なプラズマ波動が発生。またオーロラの元となるこれらの電子やイオンは、地球の磁力線の周りをサイクロトロン振動数と呼ばれる周期でらせん運動しており、1/10秒周期のリズムはこの高度に存在する酸素イオンのサイクロトロン振動数に相当。さらに、ロケットや衛星によって酸素イオンのサイクロトロン振動数に近いプラズマ波動が観測されていたことから、電磁イオンサイクロトロン波と呼ばれる波と電子の共鳴相互作用が、フリッカリングオーロラの形成メカニズムとして有力視されていた。またこの高度には、酸素イオンのほかに水素イオンも存在しており、水素イオンの振動数に近いプラズマ波動も観測されていた。よって酸素イオンと水素イオンの両方の明滅周期を持つフリッカリングオーロラを発見できれば、電磁イオンサイクロトロン波がフリッカリングオーロラを形成することを示唆する、有力な証拠になるといえる。このような背景があり、今回共同研究グループがフリッカリングオーロラの高速撮像に成功し、酸素イオンと水素イオンの両方の明滅周期を持つことを発見したことがオーロラの形成過程の解明に大きくつながったのである。

 

*注1 サイクロトロン振動数

 電子やイオンが磁力線の周りを円運動することをサイクロトロン運動と呼ぶ。サイクロトロン振動数はこの運動の角振動数であり、電子やイオンの質量に反比例するため、軽いイオンほど振動数が高い。また、磁場の強度にも比例するため、磁場の強い低高度ほど振動数が高い。

 

注2 電磁イオンサイクロトロン波

 宇宙空間に存在するプラズマ波動の一種で、空間に存在するイオンの種類(酸素、ヘリウム、水素など)に応じたサイクロトロン振動数で振動する。

 

注3 オーロラの加速領域

 カーテン状オーロラを形成する電子は、高さ数千kmに発生する電場で加速されることで、オーロラの発光層(高さ百~数百km)まで降下する。オーロラの加速領域では、加速電子やイオンによって様々なプラズマ波動が発生している。