5月27日

 

 国立極地研究所は17日、国立極地研究所の近藤豊特任教授らの研究グループが、独自開発の分析装置を搭載した航空機観測により、人為的な高温プロセスで生成した黒色の酸化鉄粒子が東アジア上空の対流圏に高い質量濃度で存在し、炭素性粒子に比べて無視できない程度に大きい大気加熱効果を持つことが示されたと発表した。この観測結果から、温暖化や水循環変化の一因となる人為起源の黒い粒子として、炭素性粒子だけではなく、黒色酸化鉄粒子も重要である可能性が示された。この研究が進むことで、未解明な現象が多い気候変動の解明に向けてその不確実性を減らすことが期待されるとしている。

 

 研究グループは東アジア上空の対流圏において、黒色の酸化鉄粒子がブラックカーボン(炭素性粒子のうち真っ黒な固体粒子)の少なくとも40%の質量濃度で存在していることを発見。大気加熱率は、ブラックカーボンによる大気加熱率の少なくとも4%~7%であると推定されている。観測時に捕集した微粒子(エアロゾル)試料の電子顕微鏡観察から、この黒色酸化鉄粒子は何らかの高温プロセスで生成したマグネタイト(*注1)のナノ粒子の凝集体であることが判明した。このような黒色酸化鉄粒子は、自動車のエンジンやブレーキの高温部、製鉄工程などから発生しうることが先行研究から示唆されている。

 

 地球大気に浮遊する微粒子(エアロゾル)のうち、黒い物質からなる粒子は、太陽光吸収により大気や雪氷面の加熱をもたらす。黒い粒子による加熱は、気候全体の温暖化の一因となるだけでなく、降水量や雪解け速度など水循環にも影響を及ぼす。これまで人為起源の黒い粒子としては、化石・バイオ燃料燃焼時に放出される主に炭素から構成されるもの(炭素性粒子)しか知られていなかった。

 

 また最近の研究により、都市大気中に存在する黒色酸化鉄粒子(マグネタイトのナノ粒子の凝集体)が呼吸を介して人間の脳組織の中に取り込まれていることが判明し、健康被害を及ぼしている可能性が指摘されている。気候影響だけではなく健康影響の観点からも、人為起源の黒色酸化鉄粒子の実態を解明することが重要な課題となっている。

 

注1: マグネタイト(Magnetite)
四酸化三鉄の鉱物名。磁性を持つ黒色の酸化鉄。