7月7日

 

 総合研究大学院大学の小松睦美助教を中心とする研究グループは3日、国立極地研究所が所有する南極隕石であるYamato-793261の分光学的解析を行った結果、太陽が誕生して間もない頃に形成したシリカ(二酸化ケイ素:SiO2)結晶を世界で初めて発見したと発表した。

 

 一般的には石英や水晶と呼ばれるシリカは、地球表層では主要造岩鉱物として大量に存在している。シリカは形成時の温度圧力条件により、高温からクリストバライト、トリディマイト、石英へと相転移を行い、異なる結晶構造を持つことが知られている。Tタウリ型星と呼ばれる若い恒星や、AGB星という進化末期の恒星にシリカが存在していることが示唆されていたが、始原的隕石に含まれるシリカについては、わずかの結晶が報告されたのみであった。シリカ結晶は、太陽系星雲ガスの組成からの平衡凝縮計算では理論的には形成されないため、実際に太陽系の初期にシリカの凝縮形成が起こったのかどうかは、よくわかっていなかった。

 

 研究グループは始原的隕石中にシリカが存在するかどうかを探るべく、国立極地研究所が所有する南極隕石である、Yamato-793261を分析対象とすることとした。Yamato-793261は、1979年に第20次南極地域観測隊(JARE20)により、やまと山脈付近の氷床上で採取された始原的隕石で、炭素質Renazzo タイプ(CR)コンドライトに分類される(図2)。始原的隕石であるコンドライト(*注1)に含まれる物質の中でも、難揮発性包有物(*注2)と呼ばれる集合体は、カルシウム(Ca)とアルミニウム(Al)に富み、高温の星雲ガスから最初に結晶化した物質であると考えられている。これらの集合体は、原始太陽から発せられるガス流で、円盤内外の様々な場所に飛ばされ、一部はコンドルールと呼ばれる球状物質や低温で形成されたダストと共に、小惑星帯付近で小惑星(始原的隕石の起源天体)を形成したと考えられている。

 

 研究グループは分光学的解析により、Yamato-793261に含まれる有機物の結晶化度を調べたところ、他のCR隕石と同様に、天体での熱変成作用を受けていないことを確認した。したがってCR隕石の起源天体では温度は上昇せず(約200℃以下)、太陽系円盤での形成時の状況が小惑星に集積された後でもそのまま保持されていると考えられるとしている。またYamato-793261中のAOA(AOA#4)には、AOAを構成する通常の鉱物であるMgかんらん石、Ca輝石、Mg輝石に加えて、超難揮発性鉱物(Zr-Sc酸化物、Sc-Ca輝石)、シリカが含まれることがわかった。AOAとは難揮発性包有物の一種である、アメーバ状かんらん石集合体であり、かんらん石とCaとAlに富む鉱物から成り立ち、溶融などの二次的作用の程度が低く形成直後の状態を保存する物質として知られている。またシリカの結晶構造を調べたところ、低温で結晶化する石英であることがわかった。この集合体に含まれる鉱物が星雲ガスから凝縮する温度は、約1500℃から900℃であったと考えられる。このように、非常に広い温度領域で鉱物が凝縮された形跡を示す集合体は、太陽系物質で初めての発見である。しかもこれらの鉱物の酸素同位体組成が、太陽組成に近い値を持つことが明らかになり、集合体の鉱物の全てが太陽に近い場所で形成されたことがわかった。しかしながらシリカは、太陽系星雲ガス組成の平衡凝縮計算では理論的には形成されないとされている。この発見は、太陽系円盤の中心部に、他の鉱物が凝縮することによって化学組成が分別したガスが存在し、そこでシリカが形成された証拠になるとしている。

 

 今回発見されたシリカは、太陽の酸素同位体組成に近い値を持ち、原始太陽系円盤内の太陽のすぐ近く(約0.1AU; 地球と太陽の距離の10分の1程度)で凝縮過程を経て形成されたと考えられる。またシリカを含む集合体には、スカンジウム(Sr)とジルコニウム(Zr)に富む超難揮発性鉱物が共存しており、星雲ガスが高温の状態から徐々に冷却し、高温で生じる鉱物からシリカのような比較的低温で生じる鉱物まで、連続的に粒子が成長したことがわかった。この発見により、太陽系での物質進化の解明が一段と進むことが期待されるとしている。

 

 今後はアメーバ状集合体(AOA)へのさらなる分析を加え、原始太陽系の超初期の物質の形成過程に関する、より詳細な条件についての議論を進める予定である。本研究で用いた始原隕石の起源天体であるC型小惑星は、「はやぶさ2」が探査を行っている小惑星リュウグウと同じ種類の天体であり、有機物と含水鉱物を含むC型小惑星は、地球の海の水や生命の原材料物質に密接に関係していると考えられる重要な天体である。今後は、始原的小惑星の探査から得られる結果と、始原的隕石の系統的研究を組み合わせることで、原始太陽系円盤での鉱物の凝縮過程から小惑星形成までの始原天体の進化について、さらなる研究を進める。太陽系の進化の過程で、どのように物質が移動・共存してきたかを知ることで、地球の原材料や生命の謎を解く鍵が得られることになる。

 

( C ) NASA/JPLCaltech

図1:原始太陽系星雲のイメージ図。左図はシリカ結晶(SiO2)構造の図。赤色粒子はシリコン原子、青色粒子は酸素原子を示す。右上図は今回発見したアメーバ状かんらん石集合体の電子顕微鏡写真。

 

 

( C ) 国立極地研究所

図2:Yamato-793261隕石の全体写真。

 

*注1 隕石の中でも始原的なものは、コンドライト隕石(始原的隕石)と呼ばれる。主にかんらん石と輝石で構成される、コンドルールという球状粒子を含むことが特徴である。コンドライト隕石は、コンドルールや難揮発性包有物などの高温物質と、低温で形成された鉱物粒子や有機物ダストが小惑星上で集積した、いわば「堆積岩」であると考えられている。

 

*注2 原始太陽系星雲の超初期の段階では高温の星雲ガスから、カルシウムやアルミニウムに富む鉱物の集合体である難揮発性包有物(CAI; Ca,Al-rich Inclusion)が凝縮過程(気相からの結晶成長)を経て形成されたと考えられている。難揮発性包有物の形成年代はウラン・鉛系の年代測定法によると45.66億年であり、太陽系最古の物質であると考えられる。今回研究をした物質であるアメーバ状かんらん石集合体は、難揮発性包有物の一種である。