7月28日

 

 ESA(欧州宇宙機関)は25日、イタリア国立宇宙物理学研究所のロベルト・オロセイ氏を中心とする国際研究チームが、2003年に打ち上げられたマーズ・エクスプレスによる火星のレーダー観測結果から、火星南極域の氷と塵(ちり)から構成された層から液体の水を発見したと発表した。液体の水は氷床下にあり、氷河の高圧及び塩が含まれることによる融点の低下から、氷床下においても氷ではなく水として存在できるとしている。

 

 過去には別の宇宙探査機によって、火星において川が乾燥して干上がった地表面が観測されたことから、水が過去に存在していた証拠が発見されていた。また火星表面において液体の水にしか存在しえない鉱物も発見されていた。しかし46億年の惑星史において、気候がめまぐるしく変化していることから液体の水が地表面には存在できないとされている。そこで科学者たちは地下の状況の研究を行い、水の存在可否について調査を行っていた。2003年には火星の極域に氷が存在することが既に発見されていた。

 火星の極域において液体の水が存在することは、地球の研究内容から示唆されていた。水の融点が氷河の圧力下では下がるのである。さらに火星に存在する塩が、水の融点を更に下げることで氷点下以下でも水が存在することが可能になるのである。

 

 マーズ・エクスプレスのレーダーは”MARSIS”と呼ばれ、レーダーを地表面に当てて反射されてきたレーダーがどのくらいの時間で探査機に戻ってくるかどうかや、その強さを観測することで今回の観測データを得ることができた。今回の調査結果では、南極域にはたくさんの氷やちりの層が地下1.5kmから200kmのエリアまで広がっていることがわかった。その層には塩や堆積岩が含まれていて、水も検知することができた。その水の層は少なくとも数十cmに達するとみられる。ロベルト・オロセイ氏は、「今回の研究対象地域は微小であるが、まだ見つかっていない水溜りが他にももっとあることが期待される。」とコメントしている。

 

 今回の観測で存在が確認された湖は、地球の南極の氷床の下に4kmの長さで広がるボストーク湖に似ている。ボストーク湖には微生物が住んでいるが、今回発見された湖にも微生物が存在できるかどうかは謎である。今後の火星探査ミッションによって解明されることが期待される。

 

 また研究チームの一員であるドミトリ・チトフ氏は、「今回の研究成果によって、惑星研究が注目されていき、火星の進化、惑星の水及び生物の存在可否の理解に大きく貢献するものである」と今回の研究成果の意義を述べた。

 

 

 

( C )ESA

(左) 今回の観測対象領域 ( 真ん中 ) レーダーエコー (右)火星南極域の地下の様子