8月4日

 

 国立天文台は7月31日、アメリカのハーバード・スミソニアン天体物理学センターに所属するトーマス・カミンスキー氏らの国際研究チームが、アルマ望遠鏡とフランスにある電波望遠鏡NOEMAによって地球からおよそ2000光年にあるこぎつね座CK星を観測した結果、宇宙で初めて放射性元素を含む分子を発見したと発表した。こぎつね座CK星は西暦1670年に新星(*注1)として記録されていた天体であり、現在では恒星衝突のなごり、レッド・トランジェント(*注2)であることがわかっている。また発見された分子はフッ化アルミニウムの同位体分子(26 *上付き数字であり以下同様)AlFであり、宇宙空間に比較的安定的に存在する(27)AlFと比べてエネルギーが高い分子である。この発見は、恒星衝突が恒星内部の(26) AlFを宇宙空間に放出していることを示唆する。

 

 こぎつね座CK星は地球からおよそ2000光年の距離にあり、アルマ望遠鏡で観測したのは恒星の衝突によって生じた残骸である。研究チームは、13個の陽子と13個の中性子からなる放射性アルミニウム(26)Alとフッ素が結合した、(26)AlFという分子からの電波を捉えた。放射性原子を含む分子を太陽系外で発見したのは今回が初めてである。宇宙に存在するアルミニウム原子の大半は、13個の陽子と14個の中性子を持つ(27)Alであり、これは放射性崩壊を起こさない安定な元素である。一方(26)Alは(27)Alよりも余分なエネルギーを持っているため、放射性崩壊を起こしてマグネシウムの同位体(26)Mgに変化する。 カミンスキー氏は「放射性原子を含んだ分子の発見は、宇宙における冷たい分子ガス雲の研究において重要なマイルストーンといえます」とコメントしている。

 

 こぎつね座CK星で放射性原子を含む分子が見つかったことで、星の衝突過程についても新しい知見が得られた。重元素や放射性元素が生まれる星の内部が、星の衝突によってかきまぜられ、星の奥深くにあった物質が宇宙空間に汲み上げられていたことを示唆するということである。また詳細な解析の結果、衝突した2つの星のうちの1つは、太陽の0.8倍から2.5倍の質量をもつ赤色巨星であったことが推定された。

 

 またこれまでに天の川銀河全体では、太陽3個分に相当する質量の(26)Alが存在すると考えられてきた。これは、(26)Alが放射するガンマ線の観測にもとづいた推定であるが、ガンマ線の観測ではその供給源までは突き止められていなかった。今回の観測によってこぎつね座CK星のまわりの(26)Alの質量が、冥王星の質量の1/4ほどであることがわかった。恒星衝突はごくまれにしか起きない現象であるため、恒星衝突だけで天の川銀河に存在する(26)Alのすべてを説明することはできないが今回の観測で検出されたのは、フッ素原子と結合した(26)Alだけであった。もしかすると原子として単独で存在している(26)Alがもっとたくさんあるかもしれないし、恒星の衝突の仕方によってはもっとたくさんの(26)Alが汲み上げられるのかもしれないとしている。カミンスキー氏は「これですべてがわかったのではありません。恒星衝突が、もっと重要な意味を持っているかもしれないのです。」とコメントしている。

 

 

 

( C ) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), T. Kamiński & M. Hajduk; Gemini, NOAO/AURA/NSF; NRAO/AUI/NSF, B. Saxton

アルマ望遠鏡とジェミニ望遠鏡で観測したこぎつね座CK星。アルマ望遠鏡で検出したフッ化アルミニウム(27)AlFの分布を赤、ジェミニ望遠鏡で検出した水素の光を青で表現している。ここで示しているのは安定同位体(27)Alを持つ分子の分布であるが、放射性同位体(26)Alを含む分子も同じように広がっている。

 

 

 

( C ) NRAO/AUI/NSF; S. Dagnello

衝突するふたつの星の想像図。手前の赤色巨星の内部構造も図示している。26Alを含む薄い層(茶色)が、ヘリウムでできた中心核を取り囲んでいる。その周囲には対流層があり、星の外層を作る。しかしこの対流層は26Alの層には届いておらず、通常では26Alが星の表面まで汲み上げられることはない。星どうしが衝突してこそ、この内部の26Alが外に出てくるのである。

 

*注1 新星(nova)とは、白色矮星と普通の恒星からなる近接連星において、恒星から白色矮星の表面に降り積もったガスが起こす核爆発により、急激に明るく輝く現象である。

 

*注2 二つの星が激しく衝突する際に起こる現象。