10月13日

 

 国立天文台理論研究部の守屋特任助教らの研究チームは13日、パロマー突発天体観測プロジェクト(iPTF)の観測データを用いて、超新星「iPTF14gqr」の解析を行った結果、中性子星同士の連星を形成すると考えられる超新星爆発現象を捉えることに成功したと発表した。中性子星同士の連星系形成は通常困難であるとされていたが、2017年に連星を成す2つの中性子星の合体現象が重力波と電磁波を用いた観測によって世界で初めて捉えられていた。

 

 中性子星は大質量星が進化の最終段階で重力収縮が進み超新星爆発を起こした際に作られる超高密度な天体であるが、これまでの研究者の間の議論において、中性子星同士の連星形成はとても難しい条件が整っていなければ困難であるとされており、その形成過程については謎が残されたままである。

 

 2つの中性子星から成る連星が形成されるためには、連星を作る2つの大質量星それぞれが超新星爆発を起こす必要がある。2つのうちのより重い星が先に爆発をして中性子星が作られる。この際には連星系の一部の物質が放出される。ところがその後にもう一方の星が通常の超新星爆発を起こすと、連星系を作る物質が一気に失われ力学的に不安定になる。その結果、連星系が壊れてしまい中性子星同士の連星が形成されるのが難しいのである。

 

 守屋特任助教らの研究チームは、中性子星の連星系形成過程について2013 年に次のような説を唱えていた。後から超新星爆発を起こす星は、先の爆発で作られた中性子星の重力の影響で、水素やヘリウムでできた星の外層がほとんど剥がれてしまう場合がある。この状態で超新星爆発を起こすと、爆発で放出される物質がきわめて少ないために力学的に不安定にならず、連星系が壊れることがない。こうして中性子星同士の連星が形成されると考えることができるとしていた。さらにこの場合に後から爆発する星は爆発の直前に希薄な広がったヘリウムの層を周りに形成する可能性があることも指摘した。

 

 このように外層がほとんど剥がれた星が起こす超新星爆発がどのような天体として観測されるのかを2017 年に守屋氏はシミュレーションを行い、次のような予測をした。爆発のエネルギーが通常の超新星爆発の10分の1程度と小さいこと、超新星爆発後 5 日から 10 日後の間に最も明るくなること、さらに具体的なスペクトルの時間変化などについても予測できた。

 

 そして今回、このシミュレーションで予測した天体と大変よく一致する超新星が、パロマー突発天体観測プロジェクト(intermediate Palomar Transient Factory : iPTF)の観測データからこのたび発見されたのである。米国のカリフォルニア工科大学のキシャライ・デ氏が率いる研究チームが 2014 年に観測した超新星「iPTF14gqr」である。この超新星は、通常の超新星よりも爆発エネルギーが小さく、爆発時に放出された物質がきわめて少ないことを示していた。さらに超新星爆発後に行われた分光観測から、この天体の周囲には希薄なヘリウムの層が広がっていることがわかった。これらの観測結果は、シミュレーションで予測した外層が大きく剥がれた超新星の特徴とよく一致している。これは、中性子星同士の連星を形成すると考えられる超新星爆発を、世界で初めて捉えた観測になる。

 

守屋氏は「中性子星どうしの合体は、金やプラチナなどの重要な元素を作り出す現象です。今後、重力波や電磁波を用いた観測で中性子星の合体を捉えること、中性子星どうしの連星を作る超新星爆発を多く観測することで、 元素が形成される現場への理解がさらに進んでいくと考えています」と、今後の展望を語った。

 

 

( C )SDSS/Caltech 

超新星 iPTF14gqr の出現前と出現後の画像。破線の丸で囲まれた部分が超新星。超新星出現前のスローン・デジタル・スカイ・サーベイ(SDSS)による画像(赤、緑の2色合成画像、左)と、2014年10月19日の超新星出現時のパロマー60インチ望遠鏡による観測画像(赤、緑、青の3色合成画像、右)。

 

 

 

( C ) De et al. Science (2018) を改変

左:シミュレーションで予測された超新星の光度曲線(オレンジ色の破線)と、実際に観測され た超新星iPTF14gqr の光度曲線(黒丸)。超新星爆発後 3日程度までは爆発の衝撃波が冷えていくために、急激に減光する。爆発後5-10 日の間には超新星爆発で作られた放射性物質が崩壊する熱によって明るく光り光度のピークに達する。シミュレーションと観測結果がよく一致していることが分かる。

 

右:シミュレーションによって予測された外層が剥がれた超新星のスペクトル(黒)と、観測された超新星 iPTF14gqr のスペクトル(ピンク)。比較のため、連星が起こす一般的な超新星のスペクトルを重ねている(青)。外層が剥がれた超新星のシミュレーションと超新星 iPTF14gqr のスペクトルが、全体の大まかな傾向から元素による吸収線の細かい特徴まで観測結果とよく一致していることがわかる。