1月12日

 

 理化学研究所の坂井南美研究員、イーチェン・チァン研究員と千葉大学先進科学センターの花輪知幸教授らの共同研究グループは1日、アルマ望遠鏡を用いておうし座方向にあるIRAS 04368+2557と呼ばれる若い原始惑星系円盤を観測した結果、円盤の回転軸の傾きに内側と外側でずれがあること、円盤内部では外部に比べて早い段階において星間塵が合体成長し始めている可能性があることを発見したと発表した。本研究成果は、惑星軌道の回転軸の傾きにばらつきのある惑星系など、近年次々に発見されている多様な構造の系外惑星系の起源や、惑星形成の開始時期の解明につながる手がかりになるとしている。

 

 IRAS 04368+2557はおうし座の方向にあり、地球から450光年離れた場所にある生まれたばかりの太陽型原始星である。この原始星を中心としてその周りをケプラー運動回転している半径80~100天文単位(au)程度の原始惑星系円盤が形成されていることが分かっている。この円盤はまだ形成途上で若いため、周囲のガスや塵が次々と円盤に降着し、通常の原始惑星系円盤と比べて鉛直方向に膨らんだ構造をしていることが特徴である。近年このような若い原子惑星系円盤において円盤内の環状構造やらせん状構造が次々と明らかになっており、惑星形成がこれまで考えられてきたよりもずっと早くから始まっている可能性が指摘されている。

 

 共同研究グループは若い原子惑星系円盤において環状構造やらせん状構造が見られるか、またそこに含まれている星間塵の大きさが分子雲に含まれる星間塵に比べて成長しているかどうかの解明に向けて研究を行うこととした。まず取り組んだのは、この研究を行う上で原子惑星系円盤を電波で捉えるだけでなく、原子惑星系円盤に向かって落下するガスと若い原子惑星系円盤を区別して電波観測を行うにはどうすればよいかを検討してきた。その結果、電波観測によって1.3nmと0.9nmの電波観測を行うことでこれらを区別することができるようになり、原子惑星系円盤の姿を捉えられるという結論に至った。この研究手法のもと、IRAS 04368+2557を解析することとした。

 

 アルマ望遠鏡を用いて波長0.9mmと1.3mmによりIRAS 04368+2557の電波観測を行い解析を行った。その結果、中心の原始星から遠ざかるにつれて半径に対する円盤の厚みの比が大きくなる「フレア構造」が捉えられた。さらに、円盤の厚みと半径の比が原始星から半径40~60auの位置で急に変化していることから、「二重フレア構造」になっていることがわかった。またこの位置を境に、円盤の傾きが変化していることもわかった。これは円盤の回転軸の傾きに内側と外側でずれがあることを示している。このずれは原始星や円盤へと外から降着してくるガスの回転軸が時間とともに変化しているからだと考えられるとしている。このような構造は「ワープ構造」と呼ばれる。


 さらに波長1.3mmに対する0.9mmの電波の相対強度と半径の関係を調べたところ、半径60auよりも内側で有意に0.9mmの電波強度が相対的に弱くなっていることがわかった(図2)。二つの波長帯間の相対強度は星間塵の大きさに依存し、短い波長の相対電波強度が小さくなるほど星間塵のサイズが大きいことを示している。

 

 検出された初期円盤は厚く、その後重力束縛により薄い構造になっていくと考えられているが、この解析結果はそのような厚い初期円盤においてすでに星間塵が成長し始めている可能性を示している。これは円盤内での構造形成、すなわち惑星形成へとつながるきっかけを表す現象である可能性があり、従来の惑星形成、例えば古在機構(こざいきこう)(*注1)、惑星重力散乱(*注2)などの3体問題による原子惑星系円盤の構造に関する理解を大きく変える結果となるかもしれないと共同研究グループは指摘している。

 

*注1 離れた別の惑星の影響により、軌道の傾きと離心率が交互に変動する天体力学的な効果。古在由秀らにより発見された。この機構が働くと、大きな離心率を持つ軌道は、傾いた円軌道に変化することができる。

 

*注2 近くを通過する惑星の重力により、軌道が変化すること。同じ平面を回る惑星であっても、この効果により傾いた軌道に変わり得る。

 

 

 

( C ) 理化学研究所

内側と外側で回転軸の傾きがずれる「ワープ構造」をした原始惑星系円盤の想像図

 

 

 

( C ) 理化学研究所

原子惑星系円盤の北側と南側の観測データを平均して求めた、波長1.3mmに対する0.9mmの電波の相対強度(縦軸)と原始星からの距離(半径:横軸)の関係。半径60auよりも内側で0.9mmの電波強度が相対的に小さくなっている。これは円盤の内側にサイズの大きな星間塵が存在することを示す。なお半径25au以下は、正確に光学的厚み効果補正ができないため参考値である。