5月29日

 

 東北大学および国立天文台の研究者からなる研究チームは20日、すばる望遠鏡の補償光学装置と特殊なフィルターを駆使した新しい観測手法によって、遠方の星形成銀河が成長する様子を直接捉えることに成功したと発表した(図1)。また110 億年前の宇宙にある銀河の内部を高解像度で観測し、銀河にある星形成領域が星の分布よりも外側まで広がっていることを明らかにした。今後この手法を用いてより多くの銀河を観測することで、宇宙初期の銀河の構造の進化、さらにはそれを引き起こす物理過程の解明につながるとしている。

 

 研究チームは、すばる望遠鏡に搭載された近赤外線カメラ IRCS と補償光学装置 AO188 を用いて、およそ110億年前 (赤方偏移 z = 2.5) の宇宙の原始銀河団にある星形成銀河に対して高解像度の観測を行った。この研究では、地球大気の影響による像の「ボケ」を補正する補償光学装置と、狭帯域フィルター (一部の波長のみを透過するフィルター) を組み合わせた新しい観測手法によって、銀河内部の星の分布だけではなく、Hα 輝線を放つ星形成領域の分布を 0.2 秒角 (視力 300 相当) という解像度で描き出すことに成功した。IRCS の視野内に入る複数の天体を同時に観測できるので、特に銀河が密集した領域を狙った今回の観測では、一度に 11 個もの星形成銀河について星と星形成領域の分布を得ることができた。

 

 研究チームは、観測された 11 個の銀河を二つのグループに分け、各グループについて平均的な星と星形成領域の分布を比較した。その結果、特に星質量の大きいグループでは星形成領域が星の分布に対してより広がっていることを発見した(図2)。このことはより外側に新しい星を作ることによって、銀河の構造(星の分布)は内側から外側へと広がっていき、サイズが大きくなっていくということを意味する。また銀河同士の相互作用や銀河外縁部のガスの剥ぎ取りといった周辺環境からの影響を受けない孤立した同時代の銀河でも同じ傾向が見られることから、この観測結果は銀河自身が自発的に成長している可能性があることを示唆している。

 

 今回の研究では、補償光学装置と狭帯域フィルターを用いた撮像観測によって、遠方銀河内部の星形成領域の分布を直接かつ効率的に捉えられることが実証された。この手法を用いた星形成領域の構造を調べる研究は、すばる望遠鏡の次世代の広視野近赤外線装置として計画が進んでいる ULTIMATE-Subaru が実現した際には、その広い視野を活かしてより大規模に進めることが可能となる。研究チームの鈴木智子さんは「銀河内部の星形成領域の分布は、銀河に働く物理過程を理解する上で鍵となる情報です。より詳細な研究のためには、銀河の平均的な構造を調べるだけではなく、個々の銀河について星形成領域の構造を調べる必要があります。ULTIMATE-Subaru が完成すれば、様々な環境に属するより多くの銀河について個々の構造成長の様子を詳細に捉えることができるようになるでしょう」とコメントしている。

 

 

 

図1

( C ) 国立天文台

すばる望遠鏡の MOIRCS で撮影した、本研究のターゲットであるおよそ 110 億年前 (赤方偏移 z = 2.5) の原始銀河団領域の狭帯域フィルター画像 (補償光学装置なし、視野およそ1分角×1分角)。白い四角で囲まれている銀河が原始銀河団に属する星形成銀河である。拡大図が、本研究で行った IRCS+AO188 の観測で得られた個々の銀河についての高解像度の狭帯域フィルター画像である(視野3秒角×3秒角)。

 

 

 

図2

( C ) 国立天文台

今回の観測から得られた、太陽の 100-1000 億倍もの質量を持つ星形成銀河内部における星質量密度 (破線) と星形成率密度 (実線) の平均的な半径方向の分布。星質量密度の分布と比較して、星形成率密度の分布はより緩やかな傾きを持っていることがわかる。このことは、星形成領域が銀河本体の星の構造よりもさらに外側まで分布していることを意味している。銀河の構造 (星の分布) の成長は、より外側に新しい星が作られることによって内側から外側に向かって進んでいくことが示唆された。