7月3日

 

 国立天文台の塚越崇特任助教らの研究グループは6月26日、アルマ望遠鏡によって若い星うみへび座TW星を取り巻く原始惑星系円盤(塵とガスの円盤)を観測した結果、これまで発見されていなかった小さな電波源が存在することを明らかにしたと発表した。この電波源は円盤内で惑星が作られつつある証拠を示しているとしている。研究グループは、この電波源が(1)すでに形成されつつある海王星サイズの惑星を取り巻く「周惑星円盤」、(2)円盤内で生まれたガスの渦に溜まった塵で今後惑星になりうる構造、のいずれかであると推定している。いずれにせよ円盤内で惑星が成長していく重要な現場を捉えたことになり、惑星形成の過程を理解する重要な観測成果となった。

 

 惑星は若い恒星を取り巻く原始惑星系円盤の中で生まれると考えられている。原始惑星系円盤には最初、数マイクロメートルから数ミリメートルの微小な塵が存在している。その塵は時間とともに合体・成長していき、いずれ微惑星と呼ばれる岩石の塊となる。これが惑星の種となる。そうして作られた岩石の塊は自身の重力によって周りの塵やガスを取り込みながら成長し、最終的に惑星になる。その際取り込まれゆく物質は、惑星の周囲を回転する円盤状の構造を作ることが理論的な計算から予言されている。この円盤状構造を、「周惑星円盤」と呼ぶ。その大きさは原始惑星系円盤全体の大きさのおよそ1%程度と、非常に小さなものだと考えらえている。このような惑星形成シナリオが天文学者の間で考えられているが、惑星が具体的にどのように周囲の物質を取り込んで成長していくかなど、その誕生と成長過程の詳細には未解明な点が多く残されている。

 

 今回の観測対象となったうみへび座TW星の年齢は、およそ1000万歳と見積もられている。地球から194光年の距離にあり、このような若い恒星の中では最も太陽系に近くにある。また太陽と同じくらいの重さの恒星であることから、私たちの太陽系の起源を知る手がかりになる天体として、これまで多くの観測が行われてきている。うみへび座は春の星座であり、しし座おとめ座の南に位置する。うみへび座TW星の周囲に原始惑星系円盤が存在することは、これまでの観測からよく知られている。原始惑星系円盤に含まれる塵やガスはマイナス250℃程度と極めて低温であるため可視光を発しない。その一方で電波は低温の物質からも発せられるため、電波をとらえることのできるアルマ望遠鏡で盛んに観測されてきた。その結果円盤は複数の隙間を持つ構造をしていることがわかっている。円盤は中心を軸にして対称な構造をしており、形成中の惑星に付随する周惑星円盤のような小さな構造はこれまで見つかっていなかった。

 

 今回研究チームは惑星誕生の詳細なプロセスを調べるため、アルマ望遠鏡を使って若い星うみへび座TW星を観測した。その結果、原始惑星系円盤内にこれまで見つかっていなかった小さな電波源がひとつだけ発見された。円盤の南西側、原始惑星系円盤の中心から52天文単位(*注1)の位置にあり、周囲に比べて1.5倍ほど電波が強くなっている場所を発見したのである。電波源は円盤の回転方向にわずかに伸びており、長さ4天文単位程度、幅は1天文単位程度である。

 

 この小さな電波源の正体が何であるかについては、主な可能性としては2つ挙げられるとしている。1つの可能性は、周惑星円盤である。今回発見された構造の大きさから、もしこれが周惑星円盤だとすると、その中心には海王星質量程度の惑星がすでに形成されていると考えられるとしている。実はうみへび座TW星から 52天文単位離れた場所には、木星質量程度の重い惑星は存在しないだろうということが、これまでの観測からわかっていた。もし原始惑星系円盤中に重い惑星が存在すれば、その惑星は周囲の原始惑星系円盤のガスを集めることにより、赤外線で明るく輝くはずであるが、これまでの観測ではそのような赤外線の点源は確認されていない。もう一つの理由は、中心の星から 52天文単位の位置に、円盤の隙間が見られないことである。重い惑星は、周囲の原始惑星系円盤に重力をかけることにより隙間を作ると考えられているが、これまでの観測ではそのような構造は見つかっていない。以上の事実から、この円盤の中に木星質量程度の重い惑星は存在しないと考えられていた。今回の観測ではアルマ望遠鏡の高い感度と解像度を活かして弱い電波放射を捉えたことで、海王星質量程度のより軽い惑星が存在する可能性を明らかにすることができたわけである。その一方では、観測された電波強度は海王星サイズの惑星を取り巻く周惑星円盤と考えるにはやや強すぎる、という問題も存在する。

 

 電波源の正体が何であるかの可能性について、もう一つ可能性としては「ガス渦説」が存在する。上記で周惑星円盤について説明したが、もし周惑星円盤であれば惑星を中心とした円形であると想定されるが、観測された電波源の形は楕円形であった。原始惑星系円盤内では、地球上で高気圧や低気圧が発生するように、局所的に渦を巻く流れがたくさん存在すると考えられており、もしこのような渦が存在すればそこに塵が掃き集められて溜まる。理論的には渦にとらえられた塵は楕円状に広がると予言されていて、今回の観測によって見出された電波源の構造とよく一致している。一方そのような小規模の高気圧が、原始惑星系円盤内にひとつだけ存在することは少し不自然であると予想され、ガス渦説が正しいことを証明する根拠としてはいまひとつである。

 

 今後は、今回発見された小さな電波源の正体を明らかにするため、研究グループは形成中の惑星の兆候をより直接的に捉えることを目指している。塚越氏は、「形成中の惑星は周囲の物質を取り込む際に温度が高くなるため、周惑星円盤の内縁が特に温められます。アルマ望遠鏡を使ったより高い解像度の観測を行うことで、今回発見された電波源の内部の温度分布を明らかにし、その中心に惑星があるかどうかを確かめたいと考えています。またすばる望遠鏡などを使って、惑星の周囲にある水素が高温になった時に放つ光を観測する準備も進めています。」とコメントしている。

 

*注1

1天文単位は地球と太陽の間の平均距離で、およそ1億5000万キロメートルに相当する。52天文単位は、太陽系の海王星軌道半径の約1.7倍に相当する。

 

 

( C ) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Tsukagoshi et al.

アルマ望遠鏡で観測した若い星うみへび座TW星を取り巻く原始惑星系円盤。円盤は全体的に対称性のよい構造をしているが、今回の観測で円盤の南西側(図右下側)に小さな電波源が発見された。