7月10日

 

 山口大学の元木業人(もとぎかずひと)助教らの研究チームは8日、アルマ望遠鏡を用いてさそり座方向にある太陽質量の10倍の大きさを持つ巨大原始星G353.273+0.641を観測した結果、この原始星を取り巻くガス円盤の姿を高い解像度でとらえることに成功したと発表した。巨大な原始星は太陽程度の質量を持つ一般的な原始星に比べて地球から遠い場所に位置しているため、これまではその周囲のようすを詳しく描き出すことができていなかった。また、円盤よりも外側から円盤に向かってガスが落下してきていることも明らかになった。さらに、円盤に含まれるガスも中心の原始星に流れ込みやすい状態になっていることも初めてわかった。これらは、多くの謎に満ちていた大質量原始星の進化の過程を解き明かす重要なステップになるとしている。

 

 夜空に光る星には、太陽の数十倍以上の質量を持つものから太陽の数分の一の質量しか持たないものまで、さまざまな質量のものがある。大質量星も小質量星も宇宙に漂うガスや塵が重力によって集まることで作られ、その形成過程は徐々に明らかになってきている。しかし大質量星はそもそも数が少なく太陽系の近くでは作られていないこと、さらに進化のスピードが速いことなどから、大質量星の誕生と成長については多くの謎が残されている。たとえば、大質量の原始星がどのように周囲のガスや塵を取り込んで成長していくのか、その過程が小質量原始星の場合とどれほど異なるのかなどについては、十分に明らかにされていなかった。

 

 元木氏を中心とする研究チームは、大質量原始星の周囲の様子を詳しく調べてその成長過程を明らかにするため、アルマ望遠鏡を使って原始星G353.273+0.641(以下、G353と表記)を観測することとした。G353は、地球から見るとさそり座の方向に約5500光年離れた場所に位置しており、太陽のおよそ10倍の質量を持っている。さらに、地球からはG353を取り巻く円盤をほぼ真上から見ることができることが過去の観測から明らかになっていた。これまでに詳しく調べられている大質量原始星の多くは円盤を横から見る形になっていたため、円盤の外側のガスと内側のガスが重なって見えてしまい、中心星のすぐ近くを調べることが困難であった。

 

 G353を観測した結果、巨大原始星を取り巻く円盤が半径250天文単位( 1天文単位は地球と太陽の間の平均距離で、約1億5000万キロメートル)にまで広がっていることが明らかになった。これは太陽系における海王星軌道の8倍以上の大きさに相当するが、他の巨大原始星の周囲で見つかった円盤に比べると小さなものである。また、円盤の中でも中心星の東側が一段と強い電波を発していることも明らかになった。これは円盤が非対称な構造を持つことを示している。元木氏は、「ガスが中心に落下していくペースを調べると、原始星の年齢を推測できます。これによると、G353の年齢はわずか3000歳ほどとなり、これまでに知られている大質量原始星の中では最も若いことがわかりました。赤ちゃん星(原始星)の成長のもっとも初期の段階を見ていることになります」とコメントしている。

 

 今回発見された円盤の質量は、太陽のおよそ2~7倍と見積もられている。中心星の質量が太陽の10倍であることと比較すると、円盤の質量が中心星の質量の20 ~ 70%もある、重い円盤ということになる。また円盤の質量と内部のガスの運動を詳しく調べた結果、この円盤は安定に存在することはできず、今後分裂して中心星に落下していきやすい状態になっていることもわかった。こうした不安定な状況が円盤の非対称な構造を生み出しておりG353が活発に成長している途中段階にあることを示している。

 

 今回得られた観測結果は、これまでによく観測されている小質量原始星の周囲と性質がよく似ており、単純に規模を大きくしたものであることを示している。つまり、小質量原始星でも大質量原始星でも成長過程そのものは似ているということを明確に示している。元木氏は、「大質量原始星の周囲は温度が高く、円盤が安定化しやすいのではないかという認識がありましたが、  今回の観測で成長初期の重い円盤はやはり不安定になることが確かめられました。このことは円盤の力学状態が原始星へのガス供給にどのように影響するのか探る上で重要な発見です。また、ちぎれた円盤片は今後中心星へ落下するのか、はたまた円盤内に残ってきょうだい星を作るのかなど、考えるべき課題が新しく生まれてきたことも興味深いです。」とコメントしている。

 

 

( C ) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Motogi et al.

アルマ望遠鏡が撮影した巨大原始星G353.273+0.641。原始星周囲のコンパクトな構造を赤、円盤を黄、その外側に広がるガス(エンベロープ)を青に着色して疑似カラー合成している。