7月17日

 

 ライス大学のアンドレア・イセラ氏を中心とする研究グループは12日、アルマ望遠鏡による観測により、原始惑星系円盤(若い恒星を取り巻く塵とガスの円盤)の中で作られた新しい惑星まわりの小さな円盤構造である「周惑星円盤」を観測することに成功したと発表した。観測対象となったのはケンタウルス座(南半球の星座)の方向約370光年離れた場所にある若い惑星系PDS70。周惑星円盤は、天文学者の理論的な計算によって予言されてきた。周惑星円盤は、木星のまわりに見られるような衛星系を生み出すもとになると考えられている。

 

 今回観測された若い惑星系PDS 70はケンタウルス座の方向約370光年の位置にあり、最近この星のまわりに木星のような2つの巨大な惑星の存在が確認された。この発見はヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡VLTで行われ、惑星に引きつけられる水素ガスが放つ光が検出されたことが発見につながった。

 

 ライス大学のイセラ氏を中心とする研究グループも原始惑星系円盤の謎を探るべく、PDS70の観測を行った。今回のアルマ望遠鏡での観測では、PDS70のまわりに浮かぶ、大きさ0.1ミリメートルほどの小さな塵(ちり)が放つ電波をとらえた。その結果周惑星円盤を捉えることに成功した。

 

 アルマ望遠鏡による観測結果とVLTによる可視光赤外線観測の結果を合わせると、若い星PDS70のまわりにある2つの惑星のうち、少なくとも外側に見つかった惑星のまわりには、複数の衛星を生み出せるほどの質量を持つ塵円盤があることが明らかになった。イセラ氏は「私たちは、初めて「周惑星円盤」の決定的な証拠を目にすることができました。これは、現在の惑星形成理論の多くを裏付けるものです。」とコメントしている。また「私たちの観測結果と他の高解像度の光学画像とを比較すると、小さな塵粒子の不可解な集合体が実は惑星のまわりの塵円盤であることがわかりました。これほどはっきりと周惑星系円盤を見ることができたのは、これが初めてのことです。」とコメントし、赤外線、可視光、電波の3つの異なる波長で惑星がはっきりと見られたことの意義を強調した。

 

 

( C ) ALMA (ESO/NOAJ/NRAO) A. Isella; ESO.

PDS 70の疑似カラー合成画像。アルマ望遠鏡観測データの他、VLTによる可視光画像を水色、赤外線画像を赤色で合成している。

 

 また研究グループは、アルマ望遠鏡のデータによりPDS70のまわりの2つの惑星の間に違いがあることを明らかにした。2つの惑星のうち、主星から近いほうのPDS 70bは、太陽から天王星までの距離と同じくらいの位置にあり、その後ろに塵の塊が尾のようにつながっている。「これが何であり、この惑星系にとって何を意味するのかはまだ分かっていません。私たちが唯一言える決定的なことは、この惑星が単独で存在しているのではないということだけです。」とイセラ氏はコメントしている。

 

 2番目の惑星であるPDS 70cは、アルマ望遠鏡のデータで見られる塵の集合体と同じ位置に存在している。この惑星は、赤外線と水素が出す光で非常に明るく輝いているため、惑星はすでにほぼできあがっていて、惑星の表面に近くのガスを吸い寄せることで成長を終えようとしていると考えられる。この外側の惑星PDS 70cは、主星からおよそ53億kmの距離にあり、太陽から海王星までの距離とほぼ同じである。またこの惑星の質量は、木星の質量とほぼ同じか10倍程度であると推定されている。「もし惑星の質量が木星の10倍もあったとしたら、そのまわりには惑星サイズの衛星が形成される可能性も十分あり得るでしょう。」とイセラ氏はコメントしている。

 ところで土星の氷の環は、太陽系の歴史の中では比較的最近に彗星や岩石天体が互いに衝突することで作られたと考えられるようになった。その一方で周惑星円盤は、惑星が作られたころの残留物であり、惑星自体と同じ原材料で作られていると考えられている。

 

 イセラ氏は最後に「しばらく時間をおいてもう一度この惑星系を観測すれば、惑星と塵の集合体の位置をより簡単に描き出せる。そして描かれた原始惑星系円盤の姿から、太陽系が形成され始めた段階での惑星の軌道の性質について、私たちに独自の知見を与えてくれるでしょう。」と今後の期待についてコメントした。

 

 

( C ) ALMA (ESO/NAOJ/NRAO); A. Isella.

アルマ望遠鏡が観測した、地球から約370光年の位置にある惑星系PDS 70の塵の分布。